5万
2015/03/17 16:47
女という生き物は好きだ
きゃんきゃんと煩い口と媚を売る目さえ無くしてしまえばこうも非力で扱いやすい
目を見るだけで虜にしやすく、男よりも栄養価が高い、力がないので無駄に反抗してモノを壊すこともない、だから人間の女は特に気に入っていた
ただ一つ難を上げるとすれば、その女の大半は面倒な性格をしていた、今もそうだ
娼館の一室、ジンの目の前で、一人の女が突っ伏して泣いていた
ジンは面倒くさいものでも見るようにそのさめざめと泣く女を慰めるでも罵倒するでもなく見ている
はだけた衣装を直しもせず、女はベッドに顔をうずめて泣いていた
半刻前、女は明日どこぞの国の商人に買われてここを去るのだと言っていた
それを聞いてジンはただひとこと「そうか」とだけ言った、特に興味はない、関心もない
行為の後の甘い余韻すら感じることなく立ち上がったジンに、しばらく呆けたようにこちらを見ていた女は泣き出した
女が言いたかった、いや、俺にどうしてほしかったのかは言わなくてもわかる
引き止めてほしかったのだろう、前々からこの娼婦はそういった態度を目に見えてとっていた
だがそれをして何になる? 自分の屋敷に来たとてすぐに喰われて死ぬのがオチだ
そうならずに人間の嫁としてこの乾いた国から出ることができるのに、何故泣くことがあるのか、ひたすら謎だった
女は言った、たとえ死んでもいい、それでも言ってほしかったと、俺には尚更理解できなかった
娼館を出るとき、女はうつむきながらぽつりと言葉をこぼす
「あなたはきっと、誰も愛さず、愛せないのでしょうね…」
ジンは何も言わなかった、かける言葉も意味も見つけられなかったから
そのまま王城に向かう気にはならず、屋敷に戻り自室にこもる
床も天井も蔓に覆われた部屋を眺めながらふと女の言葉を思い出した
「お前だって、俺の気にあてられただけだろうが…」
俺が樹人であり絞殺しの樹である以上、愛し愛される、そんなものはありえない
ああ、でももしも…
「そうだな、もし、俺の目を見ても囚われず、この蔓に食い殺されない女が現れたら、その時は…」
そこまで考えてふっと吹き出した、何を感傷に浸るような真似をしているのだろうか、自分は
きっとあの女にあてられたのだ、そうに違いない
違いないから、思ってしまった
その時は、そいつのことを愛してもいいかもしれない、と
50000Thanks!