小説 | ナノ
空気と共にあれ

部室を出ると誰が見てもわかる泣いた後の顔をしている名前。一緒に帰るべと誘えば、不安げに旭を見上げた。旭は微笑んで頷き、名前の手を引いて立ち上がらせた。

帰り道のそいつは、お前は誰だと言いたくなるほど静か。こんな名前を見るのは初めてで、俺はただただ苦しかった。

名字名前という人間は、常に人を笑わせたり、楽しませたり、なにより自分が楽しんでいたいと思っている。少しぐらいの嫌なことは表に出さないのか、すぐ忘れるのか、嫌なことだと気付いてすらいないのか。とにかく能天気で、晴れか雨かで言えばどう考えても晴れ側の人間だ。だからこそ、雨を降らせた奴が許せない。

俺らがお互いを恋愛から遠ざけていることなんて、分かり切っている。多分こいつも分かってる。ただ、他人に直接言われたことがなかったんだ。勇気出して告白してきた奴が、勇気出しついでに余計な事を言ってくれたという訳か。

「名前はさ、俺に彼女ができるの嫌なんじゃなかったの?」
「…嫌だよ。一緒にいられなくなるかもしれない」
「俺も同じ気持ちなんだけど、それ以上になんかいる?」
「私はいらない。スガといられればそれでいい。でもスガの邪魔はしたくないんだよ…」
「途中までは同じ気持ち。でも俺は名前に彼氏出来そうになったら全力で邪魔するよ。一緒にいる事を簡単には諦めない」

軽い気持ちの奴なんて、はなから排除してやる。俺の存在すら乗り越えて本気で名前のことを愛してくれる人が現れたら、それはその時考える。あー考えただけで鬱だ。

「スガぁ…ひひっふふふ、うぅ…」
「泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「だって嬉しいじゃんかぁ。大好きだよスガぁ」
「俺もだぜっ!」

ぼろぼろの顔で笑う名前が、やたら可愛く見えた。目が腫れて、赤い鼻をして、ひどい顔なのに。

「大体なー、ポッと出の男の言葉なんかに惑わされんなよなー」
「ポッと出でもないんだよ。2年で同じクラスになってすぐに連絡先聞かれてね、それからわりとよく話してたから」
「は?!聞いてないんだけど!そういうの全部報告しろよ!」
「報告必要だったか」
「報告・連絡・相談、これ社会人の基本!」
「ほうれんそうですね!わかりました課長!」

名前はいつものようにふざけて笑って、俺の前で片膝をついた。プロポーズだとしたら男女逆だよな。両手を取って見上げてくるそいつの目は、相変わらず赤く腫れていた。

「私、スガを信じる。スガへの忠誠を約束する」
「俺って何?王様?」
「んープリンス、かな。見た目的に」
「じゃあ名前がプリンセス?」

家来でいい、となんとも欲ない答えに笑ってしまった。名前も釣られて笑った。

今日はちょっと他人に乱させれてしまったけど、俺たちはずっと変わらずにいられる。名前を笑わせるのは俺で、俺を笑わせるのは名前。それ以上もそれ以下もいらない。空気ほど当たり前に共にある存在でいればいい。


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