小説 | ナノ
手を出しやすい系女子

「名前さーーーん!!」
「西谷ーーー!!」

体育館に入るや否や、さっきまで並んで歩いていた名前は西谷のところへ走って行った。2人で両手を繋いで勢いよくぐるぐると回り、最終的に名前が吹っ飛んだ。

「わーー名前さん!!すみません!!」
「おい、大丈夫かよ…」
「旭!このやろー旭!婿修行待ってたんだぞ!このやろこのやろ!」
「いや俺なんて4番手だし…」
「まだ気にしてんのかい!」
「旭さんなんスカ4番手って?」
「西谷には絶対に言わない」

今度は旭の脇腹をグーで連打して困らせている。4番手とは本当になんのことなんだ。

久しぶりの学校で久しぶりの部活、更には旭と西谷の復帰ときたのだからここまでのハイテンションでも不思議じゃない。
そして今は練習の準備をする清水の手伝いをしながら、かしましく話かけている。そんな忙しいやつがいなかった最近は、やっぱりなにか物足りなかったなと気付いた。


練習後、名前は山口とネットを片付けていた。2人の手が触れたのか、山口は大袈裟に手を引っ込めて謝っている。

「山口ってさ、名前のこと普通に女として見てそうだよなー。」

バレーシューズの紐を解きながら近くにいた大地と旭に言うと、確かにと笑った。

「俺も女として見てますよ!」

通りかかった西谷が、いつもの堂々たる佇まいで言う。むしろ俺たちの方が理解出来ないと。

「2年はもれなく全員同意見です!!」
「いやぁ、それはないだろ」
「わかってねぇなスガさん。あのぐらいの可愛さが1番リアルで男は手を出しやすいんですよ。人気のアイドルが必ずしも超美人とは限らないのと同じッスね!」

正直意味がわからなかった。いや、意味はわかるんだけどだってあの名前だぞ。いつもふざけててヘラヘラしてて、常に誰かを茶化しているような奴だぞ。

「まさかっ、大地と旭はそんな目で見てないよな?!」
「俺はー、親戚んちの犬みたいな感じかなぁ」
「ひでえな大地…俺はまぁ最初は普通に可愛い子だなとは思ったけど、スガがああいう扱いだからあんま思わなくなったな。って睨むなよ!今は思ってないって!」
「ま、スガさんと一緒にいるうちは誰も手出しできませんよ!」

西谷が何かを思い出したように、ただあれはヤバイと周りに聞こえないように小声で言った。

「あの格好!制服、部活ジャージ!」

名前はいつもOBが置いて行ったであろう余っていたバレー部のジャージを、制服の上から来ている。男物でサイズは少し大きい。

「ジャージから覗くスカートわずか5センチ。まずこのフォルムがエロい。そんで落ちてるボールを拾おうもんなら…わかります?」

西谷の視線の先には、今まさに落ちているボールを拾う名前。腰を折って手を伸ばすと同時にスカートが上がっていき、下着が見えるか見えないかという所まで見えた。
完全にいけないものを見てしまった。だめだろ、だめだろこんなの。

「名前!名字名前ー!!」
「うわっなにスガ!こわい!ひー!」
「逃げんな!下履けよ!」
「パンツもスカートもはいてるよ!人を露出狂みたいに言うなし!」
「清水!ジャージの下って余ってねえの?こいつがはけそうなやつ!」
「…あったと思う。名前、おいで」
「さすが清水!話が早い!」
「なにー潔子ー!どこまでもついてくわー!」

いやわかってたけどさ。あいつの伏し目がちになった時の長い睫毛とか、授業中に目が合った時の微笑みとか、近づくとわかるシャンプーの匂いとか。ちゃんと女なんだって。
そういうの全部俺だけが知っていたかった。いつも一緒にいるから気付けた自分だけの特権だと思っていた。

「あーあ。あーあ!」

スガが壊れたと大地に言われたが、声を出したら少しすっきりした。
手出しやすいとか言われちゃってさ。とりあえず名前に変な男が寄ってきたら迅速に排除しよう。そう決意した。

「そんなに大事なら自分のものにしちまえばいいのに。大地さんそう思いません?」
「そんな簡単な話じゃないみたいだ、スガにとっては」
「よくわかんねー」


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