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春の風物詩

放課後は大体体育館にいる。今日も田中がやたら大きな声で挨拶してくれてた。部活停止中じゃなければそこに西谷も加わっているはずなんだけど。

正式な部員でもなんでもない一般市民の私は、静かに座って練習を見学している。人手が足りなそうな時だけ邪魔にならないように手伝ったりも。マネージャーがやる程でもない雑用はなるべく引き受けていた。

そこまでしてなんでいるのかと言われると、部活というこの空間が好きなのだ。ようは他力本願で青春の気分を味わってやろうということ。我ながらいいアイディアだと思う。

「先輩!」

練習が終わると自分とさほど変わらない身長の、オレンジ髪の新入生が寄ってきた。初日に大地に追い出されていたが、無事に入部できたようだ。

「俺、日向翔陽って言います!改めてよろしくお願いします!」
「礼儀正しいねぇ。通りすがりの帰宅部です。雑用があったらなんでも言ってー」
「やっぱりマネージャーじゃないんですね!てことはもももしかして…菅原さんの…」
「そう、彼女」

その瞬間、他の1年生達も一斉にこちらを見た。注目されて楽しい。笑いをこらえながらもっと面白い展開はないかと企んでいると、走ってきたスガに頭を叩かれた。

「1年に嘘教えんなよ!またややこしくなるだろ!」
「春の風物詩にしようと思って」
「すんな!!」
「日向、ちょっと来て」

わけがわからないという顔をしている日向を呼びつけて耳打ちをする。

「ええ?!そうなんですか?!」
「日向、何言われたか知らないけど多分それ違うから」
「また騙されたぁ!だって菅原さんは生き別れの双子の弟だって…」
「ありえないだろ!てかなんで俺が弟?!普通に考えて名前が妹だろ!」
「菅原さんの双子の姉さん…」
「違うからね影山!嘘だからね!もうやだ疲れる…」
「日向と影山バカすぎ」
「「なんだと月島ー!!」」

1年生同士の喧嘩が始まってしまった。収拾がつかなくなってしまったから、早くここから離れよう。

「スガー、練習しないのー?」
「名前に言われなくてもするわ。お前がややこしくしたんだからな」
「双子説はわりとありえるんじゃないかと思ってる。なぁ弟よ」
「お前が妹!そこは譲れない!」

去年、今の2年生にも同じことをしたのを思い出して顔がにやけた。今年も楽しかったな。もう来年はないのかと思うと、少しだけ寂しい春の体育館なのであった。


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