小説 | ナノ
Happy Crazy Birthday


毎日騒がしい連中に囲まれて過ごしていると、一人になりたいと思うこともある。主将という立場上、入れ代わり立ち代わり誰かがやってきて息つく暇もない。しかし、いざ一人になってみるとなんだか物足りないなんて思ったりするものだ。

いつもなにかと付きまとってくる後輩の女が、珍しく練習を見に来なかったのだ。夏休みにも関わらず毎日来ていたくせに。
今日は俺の誕生日だった。だからって別になんか期待してた訳じゃねえけど。あいつのことだから当然知ってると思っていた。

だからなんだって言うんだ。考えるのも馬鹿らしい。さっさと寝よう。

自室のカーテンに手を掛けた時、窓の外に人影が見えた。家の前で落ち着きなくうろついている。
俺はため息を一つついて、不審者が通報される前にそいつのところへ行くことにした。


「なにやってんだよ。人んちの前で」
「っ笠松先輩!」

慌てて髪を整えるそいつはやっぱり後輩の女だった。

「あのっ先輩!そのですね…」
「名字お前なぁ、非常識だろこんな時間に。」

さっきまでの苛立ちをぶつけるかのように、思ってもいない説教をする。本当はこいつの顔を見て安心している自分がいるというのに。

「これ!」

人の話も聞かずに差し出してきた小さな紙袋。中にはカップケーキが二つ入っていた。

「お誕生日だったから本当はもっとちゃんとしたケーキにしたかったんですけど、うまくいかなくて…時間もなくなっちゃったからこんなものしか作れなくて…」
「なっ!泣くなよ…」

俺のために今日一日これを用意していたというのか。目の前で女が泣いているというのに俺は口もとがだらしなくなるのを抑えるのに必死だった。

こんな時、気の利いたことばの一つも思い浮かばない自分が情けない。もし黄瀬だったら、頭を撫でて優しい言葉とか掛けてやるんだろうか。

「ありがとな」

そう言って、もらった紙袋をそいつの小さな頭に乗せた。俺にはこれが精一杯だ。


「送ってもらっちゃってすみません…」
「補導されたらお前のせいだからな。」
「えー?!でもまだ大丈夫ですよ!…あ、やっぱり意外とギリギリだったので帰りは走って下さい!」
「はぁ?!お前なぁ…」

さっきまで落ち込んでたくせに、もういつも通りヘラヘラと笑ってやがる。なんだか気が抜けて説教する気も失せた。

「練習見に来ないなら連絡しろ。どうせ毎回来んだろ?」
「え?」
「お前がいないと調子狂うんだよ、なんか」
「先輩、もしかして…私のこと好きですか?」

上目遣いで見つめてくる名字。詰め寄ってくるそいつから逃げるように背を向けた。

「か、勘違いしてんじゃねぇ!!」
「きゃー!せんぱーい!早く私を捕まえてー!」

勝手に盛り上がって走って行ってしまった。本当に人の話が聞けない奴だ。

「待てっつの!!名前!!」

もう、どうにでもなればいい。なにしろ今日は俺の誕生日なんだ。


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