可愛いを君に
君によく似たこの花を
恥ずかしげもなくピンク一色の花束を差し出す彼の目には、私はどう映っているのだろう。
まさか君はこの薔薇のように美しいとでもいうつもりなのか。言いかねないところがこわい。
問題はそんなことではなくて。
今日は特別な日だからと言って渡されたことで私の脳内は緊急会議の真っ最中なのである。
「特別な日ってことはやっぱり何かの記念日なのかな?」
飼ってる猫を捕まえて問いかけるも、すぐに腕から飛びだしてしまった。既に私の枕で寝ている。悩みがなさそうなその姿が恨めしい。
付き合った記念日はまだ先だしもちろん私の誕生日でもない。
初めて会った日、とか。覚えてないよそんなの。
そもそも向こうが間違えてると、彼に限ってそれはないか。そういうの女子より張り切るタイプだもの。
思い出せない私は女子失格ですか、そうですか。
こんな時にかかってくる電話は、やっぱりディスプレイに森山由孝と表示されている訳で。
「起きてたか?」
「起きてるよ。まだ8時だもん。」
特に用があったわけではないらしく、今日の部活のことを話し始めた。
由孝の話はほとんどバスケのことばかりだけどそれが嫌ではない。そんな一つのことに夢中なところも好きなのだ。
「花、迷惑じゃなかった?」
幸せな時間に酔いしれて一瞬忘れていた。今日は特別な日、なんだよね。でも結局思い出せなかった。
「全然。凄い嬉しい。でもなんでピンクの薔薇?私には可愛すぎないかな?」
「なんでって、そのままだろ。」
「どこらへんが?」
「ピンクは可愛い女の子の色だ。薔薇は…愛してる人に送るやつだ、多分!」
「そ、そう…」
「つまりな、名前を愛してるんだよ。」
「わかった!わかったから!」
ベットに顔を押し付けても足りないぐらいに恥ずかしさと嬉しさが溢れて、これ以上はこの小さな部屋には入りきらない。
浮かれた気持ちになればなる程、罪悪感は増していくし、いつも真っ直ぐな言葉をくれるこの人に嘘や誤魔化しはしたくない。
「由孝、ごめん!」
「どうした?」
「私ね、今日どうしてこれを貰ったのかわからないの。特別な日なんだよね?なのに、ごめん。」
「なんだそんなことか。」
散々悩んだことをそんなことで片付けられてしまうとは。
「だから電話出たとき元気なかったのか?」
「うそ、声に出てた…?」
「なんとなくだけどな。悩ませて悪かった。俺だけわかってればよかったんだよ。」
「なにそれ…」
少しの沈黙のあと、ため息を一つついて彼はこう言った。
「1年前の今日は、一人の女の子しか目に入らなくなった日だよ。」
俺にとっては特別なんだ、と照れ臭そうに。
「由孝、」
大丈夫、深呼吸して
「私も、あ、愛してるよ。」
上ずった声で俺の方がその百倍は愛していると言う、珍しく慌てた君。なんだか可愛くてばかみたいでやっぱり大好きだ。