小説 | ナノ
寡黙な彼の一時間目

高校生活、最後のクラス替え。

私は笠松幸男くんの隣になった。窓側なので左隣はいない。受験の年なので席替えはないらしく、1年間この席で過ごすことになる。

彼は女子が苦手らしい。
挨拶をしても顔を背けられて無視されてしまうこともしばしば。1、2年と同じクラスだったバスケ部の森山くん曰く、誰にでもそうなのだと言う。縁あって隣になったのだし、私は仲良くしたいのだけど…


隣を見るとまだ来てる気配はない。朝練が長引いているのだろうか。もうすぐHRが始まっしまうのに。

開始1分前というところで慌ただしく彼は入ってきて乱暴に音をたてて席についた。
走ってきたのだろう。制服は少し乱れていて、汗ばんだ肌をタオルで拭っている。水も滴るいい男という言葉が頭に浮かんで、関西人でもないのになんでやねんと自分に突っ込んだ。


HRが終わると英語だ。担任は英語の先生だからそのまま授業に入る。私が教科書やノートを準備している横で、彼は落ち着きのない様子で鞄を漁っていた。

鞄のチャックを閉める音とともに彼の表情はわかりやすく暗くなった。机の上に出てるものから推測すると筆記用具を忘れたのだと思われる。
授業は始まっているので誰かに借りに行くには遅すぎる。周りの席は女子しかいないので彼から声はかけれないであろう。

「笠松くん、書くもの忘れたの?」
「あ、ああ」

小声で話しかけるといつも通りそっけない返事が返ってきた。私は自分のペンケースからシャーペンと消しゴム、4色のボールペンを取り出しめ笠松くんの机に置いた。

「いいのか?」
「うん、ないと困るでしょ?多めに持ってるからよかったら今日1日使って」
「ああ」

初めて会話らしい会話が出来たことにささやかな感動を噛み締めていると、横目にチラチラと視線を感じた。笠松くんがなにか言いたげにこちらを見ていたのだ。

「どうしたの?もしかしてシャーペン芯入ってなかった?」
「あ、いや!その…」

私から顔を背けるとギリギリ聞こえる位の小さな声で言った。

「あ、ありがと、な」

いつもは凛々しく少し近寄りがたい彼が、照れて真っ赤になる姿は少年のようで可愛らしかった。これが世に言うギャップというものなのか。確かに私の胸はキュンとさせられてしまったのだった。


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