視界に在るのは数え切れないここ数日の間異常気象により雨が降り続いた。
生温かい雨が降り続けると私の心は酷く滅入った。
雨は、嫌いだ。
「随分と不機嫌だな。」
ずぶ濡れになったヴァニラが窓から入ってきた。
長い髪から滴る透明な滴がキラキラと光る。
ヴァニラは顔や体に纏わりつく髪の毛を鬱陶しそうに払う。
されがなんだか雨に濡れた子犬みたいで少し可笑しくて笑みが零れた。
「なにを笑っている。」
「べつに、タオル持ってくるから其処にいて。」
うじうじと悩み続ける心が鬱陶しかった。
そんな苛立ちをヴァニラに悟られたくなくて、私はリネン室に向かった。
部屋に戻るとヴァニラは意外にも大人しく待っていた。
「それで身体拭いて。」
大きめのタオルをヴァニラに投げ渡すと私は彼の髪を拭きにかかる。
「…自分でやる。」
ヴァニラはそう言ったけど、彼の柔らかい髪を触る機会なんてそうそう無いから私は拒否した。
「いいからじっとしてて。」
彼がこんな雨の日にずぶ濡れになって帰ってきたのはきっとあの人の為、
あの人になりたい、と思った。彼にこんなに想われているなんて、
「手、怪我してるよ。」
「何ともない。」
ヴァニラの手からは血が滴っていた。
ヴァニラの手に触れると小さく肩が揺れた。
私たちは向かい合って傷の手当てをしながら向かい合って止めどなく話す。
「雨、止まないね。」
「ああ。」
「次出掛けるときは傘持っていきなよ。」
「面倒臭い。」
無駄な言葉と途切れる会話が虚しく響いた。
無駄なのだ。
今のヴァニラにはなにを言っても、きっと何も聞こえない。
初めて人を好きになったのに、彼が私を見つめることはない。
"初恋は叶わない"なんて誰が言ったんだろう。
「もう、行かなくちゃ。」
「ああ。」
扉が閉まる軋んだ音の後、雨音が一層大きく聞こえた。
煮え切らないこの感情も、胸の痛みと共に雨に溶けて消えてなくなればいいと思った。
BUMP_OF_CHCKEN/ハルジオン
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