優しい彼、
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好きなことより嫌いなことの方が増えたのはいつからだったか、そんなことすら自分は曖昧で、そもそも何が好きで何が嫌いだったのかも、今は数多の混在した記憶の中に紛れて覚えてすらいないのだ。

毎日無感情に無感動に生きていた私にとって、逐一、何事につけても激情を露にする彼はとても新鮮に映った。

「なに笑ってんだよ、クソッタレ!」

噴水のある公園で二人仲良く散歩をしていた。同じベンチに並んで座って、私はジェラートをギアッチョは缶コーラ飲もうとしていたところだった。
けれど、ギアッチョの深爪した指ではなかなか缶コーラのプルタブを開けることができない。四苦八苦して何とか開けようとしてる彼が可愛らしくて笑ってしまったらどうやら機嫌を損ねたらしく怒られてしまった。

「ギアッチョ、」

「あ゛?、んだよ。」

「貸して、開けたげる。」

ジェラートのカップを膝の横に置いて彼に手を差し伸べた。私の方が爪を伸ばしてるしプルタブくらい容易に開けることができるだろ。

「いらねぇよ!これくらい自分でできるっつーの。」

「なんでよ?私の方が楽に開けれるでしょ?貸して。」

もたもたして缶を貸してくれないギアッチョを怪訝に思いながらごねるけど彼は断固拒否するつもりらしい。

「っ!いいっつってんだよ!…んな長ぇ爪でやったら割れちまうだろーが、」

ギアッチョが気まずそうに目を逸らした。ああ、何だそんなことか。

「別に良いのに。また伸ばせば良いんだし。」

「良くねぇだろうが。てめぇは女なんだから少しは気にしやがれ。」

プシュッと炭酸特有の弾ける音がしてギアッチョは漸くコーラにありつけた。いつもならキレてコーラごと噴水に投げつけるのに、珍しい。

「ねえ、好きだよ。」

「んだよ。急に。」

「理由がなきゃ言っちゃ駄目なの?」

「そーゆーわけじゃねぇよ。」

「ならいいじゃない。」

平日の昼下がりの公園は静まり返っている。噴水の音だけが響いて世界が静止してるみたいだった。

「お前よぉ。俺みたいな奴の何処がいいんだよ?」

「んー?…怒りっぽいところとか。」

「はぁ?」

「私、嫌いなものとか、好きなものとか無いんだよね。なんか毎日無感動でさ、でもギアッチョは私とは違うでしょ?毎日いろんなことに感動して、怒ったり、笑ったり、ころころ表情が変わってさ。それが凄く羨ましかった。」

自分に嘘を吐かないのって実は凄く難しいんだよ?
ギアッチョは複雑そうな、私が何を言ってるのかよくわからないみたいな顔をした。
そして骨ばった手が私の頭をがしがしと撫でくり回してから腕を引いてベンチから立たせてくれる。食べ掛けのジェラートはもう液体化していて完食できたものではないのでベンチに置いていく。

「言ってることはよくわかんねぇがよぉ。取り敢えず言いてぇことは解った。」
全然辻褄があってないよ。ギアッチョさん、

「ほんとにわかってんのかなぁ。」

私が苦笑するとギアッチョは真っ赤な耳でうるせぇとだけ言って歩く速度を速めた。






あとがき
ギアッチョは博識だけど人の気持ちとかに鈍感そうだといいなって思ってます。








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