悪い癖
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死んだ世界に一人佇む彼はなにを思ったのだろうと考えた。
目の下に出来た隈やお世辞にも健康的とは言えない蒼白い肌を月の死んだ光が照らした。
無人の世界の、幾つかある建物の屋上にイルーゾォが立っていた。

マンインザミラーの鏡の世界には彼が許可した人間しか入ることができないから、彼は少なくとも私が此処に来ることを許している筈なのに私を居ないように扱う。
屋上の縁に立つイルーゾォの痩せ細った腕や肋の浮き出た胴を彼の気持ちを刺激しないようにそっと抱きついて安全な場所へと誘導した。
室内に入るとイルーゾォが電気をつけてくれた。
改めて彼の顔を見ると頬に涙の痕が残っていて思わず呆れた。

「あんたさぁ。薬が切れる度死のうとすんの止めなさいよ。」

「あぁ。」

「私だって暇じゃない。」
「あぁ。」 

「ちゃんと聞いてんの?」
「聞いてるさ。」

禁断症状が出る度自殺衝動に駆られるイルーゾォを保護しに行くのは今や私の仕事となっていて、彼を保護する度に同じ様な会話をする。
薬をやめる気などさらさら無いようにも思えた。

「リーダーに言いつけてやる。」

「やめろよ。」

「ホントに死んじゃったらどうするわけ?ギャングがヤクで自殺なんて笑い話にもならないわよ。」

イルーゾォは鏡から現実の世界へと戻ろうとする。
生気の無い瞳が私を一瞥すると彼は一言、

「それはない。だって俺が死にたくなったって御劒が助けに来てくれるだろ?」

なんて言って弱々しく笑う。

「馬鹿じゃないの?」

私も思わず笑ってしまった。

「行こうぜ。」

鏡の向こう側から伸びるイルーゾォの手を強く握り返した。










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