女心と、「うぐ、ぐぬぬぬ、うおおぉ…」
「おい、なに奇声発してんだ。」
背後から頭をパシリと叩かれ御劒はパッと後ろを振り返るとプロシュートが呆れ顔で見下ろしていた。
「ペディキュアが上手に塗れないの。もうすぐデートの時間なのに髪の毛も縛ってないし。」
「貸しな。」
見かねたプロシュートがベッドに座る御劒の前にパイプイスを置いて彼女の手からピンクゴールドのペディキュアを奪い取った。
自分の手よりも数倍美しいプロシュートの手が御劒の手を掴むと御劒は少しドキドキした。
プロシュートは器用に彼女の爪にペディキュアを親指から両手の小指まで塗っていく。
御劒はその間自分の指に視線を落とす彼の長く揺れる睫毛を見つめていた。
全て塗り終えるとプロシュートは満足そうに息を吐く。
「終わったぜ。」
暫くプロシュートに見入っていた御劒ははっとする。
「暫く大人しくしてろよ。すぐ乾くから。」
「うん。」
そのとき御劒は急に恋人との逢い引きが億劫に感じられた。それは目の前の男が彼女の恋人より遥かに気のきいた男だったからかも知れない。
それから御劒は急いで部屋を出ようとするプロシュートを引き留めた。
「プロシュート!」
「あ?」
「今から出掛けましょう。」
「男とデートじゃねえのかよ?」
「良いのよ。あんたに乗り換えるわ。」
「ハン。この尻軽女。」
プロシュートはニヤリと笑うと御劒に軽口を叩く。彼女は彼の左腕に自らの腕を絡ませた。
軽いリップ音をたてて口付けすると、彼女はもう前の恋人の顔すら思い出せなくなった。
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