不機嫌
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「それでね。彼がその時……だったのよ。すごいでしょ?」

あぁ、さっさとくたばってしまえこのアバズレ女。
口から出そうになった言葉をアイスコーヒーと一緒に飲み込んだ。
目の前に座るけばけばしい化粧の女。赤い唇から自分の男がどれ程素晴らしいか何百回と同じ話を繰り返すものだからいい加減疲れてきた。
彼女の前に置かれたガムシロップを大量に投入したアイスカフェオレはストローに口紅がベットリとついていて私はやけにそれを汚ならしく思った。

周りから彼女へ投げ掛けられる好色な視線も気に入らなかったし、異常に気持が悪くなって吐きそうな気分になった。

家に帰ると珍しく鍵が開いていた。リビングではプロシュートがコーヒーを飲むながら新聞を広げていた。
「こんな時間に来るなんて珍しいわね。」

「悪ぃか?」

「ううん。丁度今逢いたかったから。」

ソファに座る彼の隣にちょこんと座ると長い腕を肩にまわされる。私は彼の胸に顔を寄せると目を閉じる。
私たちはお互いについてなにも知らない。知っているのは名前くらいなもので、私は彼の職業が何かも知らないし知る必要も無いと思っている。
ただ、彼からたまに贈られるブランド物のネックレスや服からしてカタギの人間では無さそうそれくらいの認識だ。

窓から差し込む夕日の赤がプロシュートの髪に反射して彼の髪が茜色に見えた。
思わず見いっていると何見てんだよとでも言わんばかりの怪訝そうな視線が返ってくる。

気怠い身体を起こしてプロシュートの膝の上に向かい合わせになって座ると彼の眉間の皺は更に濃くなる。
首に腕を回してキスをせがむと啄むような優しいキスをしてくれる。

「今日はやけに甘えたじゃねぇか。」

「そんな日も有るのよ。」
あんな女の男よりプロシュートのほうが余程素敵だろうに、
どんな美術品にも負けないほどの洗練された美を持つ彼より上の男など存在する筈もない。
勝手に自己完結する私。憂鬱だったここ数日の機嫌が一気に回復する。
結局私は彼に逢えなくて寂しかっただけらしい。

「明日から3日は休みだから、飯でも食いに行くか。」

「うん。」   

背中に回された温かい体温に私ははにかみながら返事をした。









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