碧眼の狂気
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寝室のドアを開けると一組の男女がつがっていた。
男の顔には見覚えがある。メローネだ。彼は私に気付いていないのか、そもそも興味が無いのか行為に没頭していて此方に目もくれない。
私は軽く溜め息を吐いて寝室のドアを閉めた。
リビングのソファに腰掛けながら隣室から聞こえる恋人の交尾の音を聞き流した。カーテンすら閉められていないリビングは薄暗く窓から入る街灯の光だけが部屋を照らした。
手持ち無沙汰の私は服の胸ポケットから煙草を取り出して口にくわえる。
火を着けると漂う紫煙の香りはプロシュートの匂いによく似ている。彼とは吸う煙草の銘柄が同じなのだ。そう言えばメローネはよくそれを嫌がっていたような気もする。

メローネと一緒に住むようになってから半年が過ぎた。付き合っていると言えばそうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。なんとも曖昧な関係である。
だから、メローネが寝室で他の女と居ても私には関係無いのだ。
だから、いままでも、これからも私は無関心を装い続ける。

ぼんやり、ぼんやりと緩慢な思考を繰り広げていると急に音が止んだ。
それから暫くして女の嬌声のような断末魔が聞こえてくる。

寝室のドアがゆっくりと開いて返り血を浴び恍惚の表情を浮かべたメローネが出てくる。

「部屋で殺さないでっていてるじゃない。」

「ごめん。」

全く悪いと思ってないような顔で平謝りする。
上機嫌のメローネは私の隣に腰掛けると私をじっと見つめる。

「プロシュートの匂いがする。」

「ふぅん。」

私はわざと冷たくあしらう。

「あんたには、関係ないよ。」

メローネは挑発的に笑うと私に覆い被さり噛み付くようにキスをした。
私は相当頭にきていたから彼の唇を前歯で思い切り噛んでやる。

「俺が他の女と寝てたから嫉妬してる?」 

ああ、そうだよ悪いかよ。この甲斐性無しめ死んじまえ。頭の中で悪態をつくと目頭が熱くなり涙が溢れそうになった。

メローネは私をソファに押し倒すと服の中に手を忍ばせる。
穢い、穢い、穢い。他の女を触れた手で私を抱くのかお前は。

「触んな。気持ち悪ぃ!」
必死で抵抗するけれど彼にはそれすらも興奮材料でしかないらしく笑みを深めるばかりだ。

「ああ、いいね。その顔、」

ディモールトベネとかなんとか呟きながら尚も迫ってくる彼の顔を睨み付ける。
私の瞳から溢れだし流れる涙の意味すらメローネには一生解らない。 
狂気を孕んだ碧眼には私は一生映らないのだと霞む視界の中考えたのだった。










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