箱庭



箱詰めにされて地中の奥深くに葬られる。
可哀想だと思った。

忍界大戦が終わってから20年近くになる。
まだ幼かった私も沢山の人の死を見てきた。
棺桶と言う細長い箱に詰められてしまう人をとても可哀想だと思った。
死者を葬る人間はきっとどこかで彼等が蘇ることを恐れてる。だから二度と出てこれないように箱を密閉して思い出と一緒に忘れてしまうんだ。

「よくそんな狭い場所にいれるわね。」

サソリのヒルコの頭を指でつつくとやめろと言うように尾で手を払われた。

「飛段のヤツと喧嘩するたび俺んとこ来んのやめろよ。」

「だってあいつ。私が閉所恐怖症だって知ってるくせに部屋に閉じ込めようとしたのよ。」

「俺んとこに来るなって言ってんだよ。」

サソリの部屋は傀儡の手足だとか薬品の瓶が綺麗に整頓されている。私はこの部屋の消毒液臭さが好きでよく訪れる。

使いもしないくせに部屋の隅に置いてあるベッドは長い時間干していなかったのか少しカビ臭い。

「神様って嫌いなの。だって神様がいるって考えちゃったら私たち自体がこの"世界"っていう箱の中で生かされてるみたい。でしょう?」

サソリは返事をしなかったから話をちゃんと聞いてくれてるかわからなかった。でもいつもそんな感じだから私は構わず続けた。

「この部屋も"世界"っていう大きな箱の隅にある"家"っていう箱の中にある"サソリの部屋"っていう箱なのよ。」

私はヒルコの首に後ろから腕を回して寄り掛かる。固くて冷たい、無機質な物体。

「しかもサソリは"ヒルコ"っていう変な形の箱に入ってるし。」

「なぁ、中身が無けりゃあ箱ってことになるのか?」

サソリが口を開いたことに驚いた。

「そうだね、なかにものが詰められればみんな箱だよ。」

「じゃあ、俺も箱か?」

「…っ!」

ヒルコの蓋があいて白い手が伸びてくる肩を掴まれて引きずり込まれる。

「サソリっ!出してよ。」

狭い箱の中で滅茶苦茶に暴れる。狭くて暗い小さな箱に閉じ込められて私は恐怖で錯乱状態になる。

「俺が空っぽの箱かどうか、試してみろよ。」

暗い中でサソリの紅い瞳が光る。
唇を割られて冷たい舌が口内に押し入ってくる。キスをしている瞬間、棺桶に入れられる自分を想像した。こうして、サソリとキスをした記憶すら箱に詰められて魂ごと密閉されてしまうのか。嗚呼これじゃあどこにも行けやしない。

肩や足が何度もヒルコの内側に当たってじんじんする。少なくともこうしてるうちは私も彼も空ではない。だから私はサソリに一言。
「あんたは空っぽじゃないわ。」


そう言った。









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