意識の遠くから物音が聞こえてきてふわふわと意識が浮上してくる。 焼いた卵の匂いにコポコポと紅茶をいれる音が届いていた。 お母さん、起こしてくれても良かったのになあ。なんて思いながら目を開けるとそこはわたしの知っている部屋、というか布団ではなくて思わず声が漏れた。
いつの間に布団が水色になった。わたしの布団は赤の水玉模様だったはずだ。 お母さんが勝手に模様替えしたのに気付かなかったのかな。
呆気に取られていると「起きたかー?」とだるそうにランピーさんが入ってきた。
ランピーさん。 そうだここはわたしの家じゃなくてランピーさんの家だったんだ。 そう理解して次第にゆっくりと、でも鮮明に昨日の出来事が蘇ってきた。
確かにあの時意識は飛んだし、死んだはずだった。それなのに
「・・・生きてる」
わたしは、生きている。 話には聞いていたし、実際体験もしたけれど、何とも言えない不思議なこの現象は結局不思議なままだし死んで生き返ったという実感は湧いてこない。
だけど死んだということは痛いほど分かった。 今こうしている間も、あの時の記憶が脳裏でぐるぐると渦巻いている。そして全身が二つに曲がるような、もう二度と体験したくない感覚も。
「朝から暗い話は一日が暗くなるぞ。ご飯食べよ」
見かねたランピーさんがわたしに声を掛ける。 今まで何も考えていないような人だと思っていたけれど少しは考えているのかもしれないと思った。
「はーい」と返事をしてから、ランピーさんとキッチンへと向かう。 ランピーさんが意外にも料理が出来たということを知って驚いていると、前を歩いていたランピーさんに「お前一回俺に謝れ」と頭を軽く叩かれた。
やっぱり失礼だったのかと思いつつ、気付かれたことにまた驚く。
キッチンに着くとそこにはテーブルの上に二人分の食事が用意されていた。 ゆらゆらと湯気を立てているミルクティーにふわふわのスクランブルエッグ、それからイチゴジャムが塗られた焼きたてのトースト。 思わずお腹がなってしまったくらい美味しそうだった。
「すっごく美味しそう!」
「早く食べよう、座って」
ランピーさんに促され、慌てて椅子に座る。 近くで見ると更に美味しそうに見える。 二人でいただきます、と手を合わせてからランピーさんの料理を口に運んだ。
「何これめっちゃ美味しい!」
「まー俺が作ったんだし当たり前かも」
「ナルシストですか」
「冗談だって」
そう言ってランピーさんはへらへらと笑ったけれど、料理は本当においしかった。
スクランブルエッグはわたしが大好きな甘い味付けだったし、ミルクティーだって大好きな砂糖とミルクがたっぷり入ったもの。わたしが甘いものが好きだとは一言も言わなかった。 もしかしたらランピーさんとわたしは気が合うのかもしれない。
それにしても、美味しい。
ゆるゆると頬が緩む。 きっとだらしない顔をしてるんだろうけど止まらないし止める気もない。
正面で見ていたランピーさんに「何ニヤニヤしてんの」と不審げに言われたので正直に美味しいからと答えるとどうやら照れたみたいだった。
何だか、朝から幸せだ。
20130428 |