わたしとヒビキとコトネちゃんはみんな近所に住んでいて同い年で、いわゆる幼馴染みというやつだった。物心付いたときにはもう既に遊んでいたと思う。
二人に比べて少しだけ鈍臭いわたしだったけれど、二人ともそんなわたしを笑って助けてくれて、だからそんな優しい二人が大好きだった。
当時のわたし達にとって、一番の憧れはポケモンを連れて旅にでること。
大きくなったらみんなで一緒に旅に出ようね、と約束してそれから三年が経った。
短いようで長かった三年。
わたし達はもういつでも旅に出られる年齢になっていた。
「ね、いつここ出る?」
楽しみで楽しみで仕方なかったわたしは思わずヒビキに聞いてしまった。
その瞬間、彼は一気に難しい顔をしてわたしを見る。心のどこかで何かがざわりと騒いだのに気付かないフリをしてヒビキを見つめた。
しばらく目が合ったまま、どれくらいの時間が経ったんだろう。不意に難しい顔をしていたヒビキは一瞬迷ったような顔をしたけれどすぐに覚悟を決めたような顔をした。
そしてしっかりとわたしの目を見ながら口を開いた。
「ナマエ、やっぱりお前はここで待ってろ」
いつになく真剣で、有無を言わせないような顔だった。
楽しみで仕方なかった。だから聞いた。それなのに一緒に旅に出られないだなんてそんな。
でも、「嫌だ」なんて言えない雰囲気で、ただただ「何で」と、それしか思い付かなかった。
その時の自分のことはあんまり覚えていないけれど、多分まともに話せていなかったと思う。
なんとか理由を聞こうとしたのに最後まで教えてくれなかったのだって辛かった。そんなに言いにくいことなの?一瞬そう思ったけれど多分きっと、わたしの何処かに原因がある気がした。
それでもずっと、本当にほんとうに楽しみにしていた事だったから仲間外れにされて悲しかった。悔しかった。
ヒビキからここにいろと告げられた次の日に、ヒビキとコトネちゃんは旅に出て行ってしまった。
結局立ち直れなかったわたしは部屋に引きこもったままで、見送りになんて行けなかったけど。
後でお母さんが言うには、ヒビキはヒノアラシ、コトネちゃんはチコリータを博士に貰って行ったらしい。
わたしが知っていることは唯一、外がいつもより少し騒がしかったことだけ。
そしてそれから一年経った今、わたしはついに旅に出たのだ。ジョウトではない、遠く離れたホウエンに。
理由は簡単。もしジョウトのどこかでヒビキに会うと思うとどうしても怖くなったからだった。
もっとつよければ、あの後すぐに二人を追いかけることだって出来たはずなのに。
ぐらついた世界
20131123
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