ユウキさんにバトルの何たるかを教えてもらい始めてからもう数か月が経っていた。
チャンピオンを目指しているわけではないからジム戦に挑戦したことはないけれど、この前カズキくんにもリベンジして勝つことができたし他のトレーナーさんともまともに渡り合えるようになっていた。
少しはユウキさんにだって認められてきたと思う。
そしてデルビルだって初めてホウエン地方に来た時よりも、うんと強くなった。
一度だけユウキさんに勧められてコンテストにも挑戦したけれど、まだ自分のことだけでいっぱいいっぱいの私には少し早かったみたいだった。
それでもコンテストはとっても楽しかったし、デルビルはただただ格好良かった。
「ナマエ、ちょっと用ができたから行ってくる。なるべく早く帰ってくるから」
珍しく慌てた様子のユウキさんがそう言ったのを聞いて行ってらっしゃいと返事をすると、あっという間にボーマンダの背中に乗って瞬く間に空へと消えてしまった。
少しだけデルビルが寂しそうなのが、なんだか複雑だ。
いつもユウキさんに引っ付いていたから、ホウエンに来て1人で行動するのは今日が初めて。
もし何かあったらと少しだけ不安になったけれど、最初よりはずっとましになったからきっと大丈夫。ユウキさんもそれを分かっていて行ったんだろうと思う。
ふと、私のバッグの中から聞き慣れない着信音が聞こえてきた。
取り出してみるとそれは、旅立つ時にお母さんが持たせてくれたポケギアだった。
こっちでは使う機会が全くなかったから持ってきていたことすら忘れていた。
番号はお母さんにしか教えていない、それなのに表示されているのは全く知らない番号で。
少しだけ怖くなりながらも鳴り続けるポケギアの通話ボタンを押す。一体誰なんだろう。
「も、もしもし?」
いつもより騒ぎ立てる心臓をできる限り鎮めながら、相手の返事を待った。
《もしもし》
聞こえてきたのは凄く懐かしくて、そして今一番聞きたくなかった声。
《俺、ヒビキだけど》
産まれてはじめて、血の気が引いていくという感覚を知った。
突然
20131026
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