カズキくんと別れ、ユウキさんとまたポケモンセンターに戻る。
ユウキさんによれば、トレーナーカードを使って回復できるのと同じように、トレーナー自身も無料で寝泊まりできるらしい。
トレーナーって便利なんだなあ。そう思うと同時に、本当に何も知らないまま来てしまったんだと思い知った。
受け付けを済ませてくれたユウキさんは「これがナマエの部屋の鍵」と言ってルームキーと受け付けに必要だったため渡していたトレーナーカードを返してくれた。
ちゃんと隣で見ていたから次に来たときは自分一人でもきっと大丈夫…だと思う。
頭を下げながらお礼を言えば「どういたしまして」と言ってユウキさんは笑った。
それは今まで見た中で一番嬉しそうな笑顔だった。
「そうだ、ナマエ」
「え?」
「今から俺の部屋においでよ。ナマエの頭にバトルの基礎を叩き込んであげるから」
そう言い残してユウキさんはスタスタと歩いて行ってしまった。
荷物は自分の部屋に置いておいで、という気配りも忘れずに。
***
コンコン、と扉を鳴らす音が廊下に響き、すぐに中から「どうぞ」と返ってきたのを確認して扉を開ける。
中で待っていたのはニット帽を脱いだユウキさんとテーブルの上でカタカタ揺れているモンスターボールだった。
帽子をとったユウキさんを見て初めてユウキさんの髪が黒髪だという事を知った。
「デルビルも一緒に来たんだ」
嬉しそうにニコニコしているユウキさんに何故だかわたしも嬉しくなる。
ユウキさんの歓迎オーラが伝わったのか、デルビルはユウキさんの方へと走って行ってしまった。
慌てて、ごめんなさいと謝るとユウキさんはさっきとはまた少し違った笑顔で「気にしないで」と言いデルビルを撫でた。
心なしか、デルビルがわたしよりもユウキさんに懐いているような気がして少しだけ寂しくなったけれど、そう感じた瞬間にデルビルがわたしの元へと帰ってきて座り込んだ姿を見て、さっきまでの寂しさは何処かへ行ってしまったみたいだった。
自分でも呆れるくらい単純だと思う。
「じゃあ始めようか。」
そう言ってユウキさんがイスに座ったのをみてわたしもユウキさんの方へと駆け寄る。
ここだけの話、わたしは学校や塾に通った事はないからはっきりとは言えないけれど、ユウキさんの教え方はスパルタ以外の何物でもないと思った。
もちろん本人に言えば何を言われるか分からないから、言えるはずがないのだけれど。
分からないことだらけ
20130821
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