どうやらナマエの初恋にも進展があった様で昨日メールが届いた。いつもは見ない打ち間違いが多発していて思わず携帯にツッコんだのも昨日だ。面白さから顔がニヤけるのは許してほしい。そして今俺がいるのはナマエのアパートの真ん前。呼びつけた張本人であるナマエが一向に降りてこない。大体部屋が汚くて片付けてるんだろうなと予想は付くけどじゃあ何で家に呼んだって話だよなあ。はあ、と無意識にため息が溢れる。
ポケットから携帯を取り出し”ナマエ”の文字を探して通話ボタンを押す。…思わず掛けてしまったけれど、出るだろうか。
何回目かのコール音を聞いていると「も、もしもし!」と慌てるナマエの声が聞こえてきた。
「着いたけど」
『うわごめん!』
今降りる、と言う声を聞いた直後に電話越しからガタンッと盛大な音と奇声が聞こえて、思わず電源ボタンを押す。何やってんだか…まあ、そんな所が飽きなくて面白いんだけど。飽きないって言葉はアイツのためにあるんじゃあないだろうか。最近はそんな事さえ思えてくるようになってしまった。
***
「大変、申し訳御座いませんでした」
そう言いナマエは自分の家にも関わらず俺に土下座をした。…はっきり言って悪い気分ではない。勿論性格が悪いのは自覚済みだ。
「いいけど、待たせた割には言うほど片付いてないね」
「ほんとすいません」
はあ、と大きい溜息をつけば揺れるナマエの肩を見て思わずニヤけてしまう。本当に飽きないなあ…でももうそろそろ許してあげてもいいかな。そう思いそっと口を開く。
「それで、どうなったの?」
敢えて誰と、と言わずに聞いたのだけれど、それでも理解できたのかナマエは勢いよく顔を上げて、その顔を輝かせた。
「一緒にお茶した!」
「へえ、お茶」
ほんとに偶然だったんだけどと嬉しそうに話すナマエはどこにでもいる、恋する女の子だった。ナマエとは付き合いは長い(と言うよりは短くはない)けれど、こんな顔を見るのは初めてで少しだけ、モヤモヤした。大好きなオモチャを取られたというか、そんな感じに近い気がする。
どうやら話を聞いていると年上の男らしい。物知りで、コーヒーが好きだけど甘いものも好き。俺が覚えて得する訳でも無いけれど一応、ね。
「そういや、名前は?」
「教えてもらったよ、でもシャルには教えなーい」
「うわ」
にやにやとこっちを見るナマエはすごく腹が立った。くらえと額を思いっきりデコピンしてやれば痛かったのか涙目で見ているけれど、自業自得だ。ざまあみろ。
「お、お腹空いたね」
「言われてみれば」
「というわけでシャルナークさん」
いやシャルナーク様!懇願するようなナマエの声色に、直感的に嫌な予感を感じ取る。こういう時は大抵ひとつしかない。
「お昼作ってください」
「…いい加減料理覚えればいいのに」
「カレーは作れるようになったよ」
そうくると思っていた。ナマエは面倒臭がりなのか、ご飯を作るのを面倒臭がる節がある。本当に女か?とも思うけれど、頼られて悪い気はしない辺り俺もどうかしてるよなあ。と思う。
「仕方ないなあ」
しぶしぶ立ち上がる俺を見て笑顔になるナマエ。その姿を見て俺も少しだけ笑ってしまった。何だかんだで俺はきっとこいつにずっと甘いんだろう。
「サラダはナマエに任せるから」
「アイアイサー!」
20120521(20150315)