初代アローラチャンピオンになったあの日、彼は黙ってあたしの前から姿を消した__
*プロローグ*
「ママねー、ここに行ってみたいのよ!」
いつもの昼下がり。ママの何気ない一言が、あたしの運命を変えることになろうとは…。
「ククイ博士!?だれ?オーキド博士の知り合い?」
あたしが産まれたのはカントー地方。かの有名なレッドさんやグリーンさんの出身地でもある、すごいところ。オーキド博士っていう偉い人がいて、ポケモンと呼ばれる不思議な生き物について研究してるんだ。各地にジムがあって、みんなそこで育てたポケモンたちを競わせて、経験を積んでいくんだけど。
「かなこは女の子だからママ、心配になっちゃうわ」
11歳の誕生日を迎えた頃にはそう言われちゃって。でも、ひょんなことからジム戦を見る機会があって、そこに来ていたククイ博士って人のポケモンに一目惚れしたらしくて。
「アローラ地方!?へえ…でもパパ、置いてっちゃって怒らないかな?」
行くのはママとあたしのふたり。パパは仕事が忙しいから今は無理なんだって。そうこうしているうちに、そのククイ博士からのテレビ電話で、あたしの本格的なアローラ行きが決定したの。
「アローラに引っ越しする日が、いよいよ近づいてきたね!じゃ、きみの到着を楽しみに待ってるぜ!!」
「はい!ではまた!」
アローラ地方は温暖な気候みたいで、持ってる中で一番薄い洋服をひたすら段ボールに詰めこんで。
「ほら、かなこ行くわよ!飛行機に遅れちゃう!」
「のんきなママに言われたくないよ!ギリギリまで準備してたくせにー!」
それから数時間。アローラ地方に到着したのは、昼をちょっと過ぎた頃だった。