23
「ん?そこに誰かいるのか?」

ったく、リーグスタッフのヤツ。すっかり遅くなっちまったじゃねえか。まあ別に?予定なんてねえし?頭の中でぶつぶつ文句言いながら控え室に向かう途中、なぜか廊下の明かりが消えてやがる…いや、まだオレいるけど?不審に思ったが特に気に止めずに控え室に入ると、人の気配がしてそう口に出した。

「………かなこ!?」

ロトムを呼び出し、オレの周りを照らす。気配のする方に目をやるとそこにいたのは、帰ったはずのユウリ。こんなところで何してんだ?だが、オレの問いかけには答えず、代わりに困った顔を向けながら首を横に振る。まさか…いるのかよ?ダンデの言ってた変なやつが。

「……っ!?」
「逃げてんだろ、だったらこうしてろよ」

咄嗟に関係者以外入れないスペースにかなこを連れ込んで、抱きしめた。やべ…いい匂いがする。ったく…ここまでして恐怖を植えつけやがって、どこまでこいつのことが気に喰わねえんだ。かなこはやってるだろ、ちゃんと。オレたちはしばらくの間、暗がりの中で息を潜めていた。

「………」
「………」

助かった…そう思ったのも束の間。緊急事態だから仕方ないけど、キバナさんとこんな近い距離…その、抱きしめられてる……。身長差があるから、どっちかというと抱きついてる構図に見えなくもないけど。どうしよ…心臓はあり得ないくらいにバクバクと音を立てている。

「かなこちゃん……?」

あたしの名前を呼ぶ声…誰?身体に力が入ったからなのか、抱きしめる力も強くなった気がする。キバナさんの匂いがしてクラクラしてくるし…もう、限界。お願い…早く帰って。あたしたちを解放して。

「はあ……」

頭の上から溜息が聞こえたと思ったら、腕の力が緩められた。もう、いなくなったってこと…?バレないようにそっと息を吐くとキバナさんは、ダンデさんに連絡を取り始めた。

「もしもしダンデ?今すぐシュートスタジアムに来い。オマエは迷うからな…絶対にそらとぶタクシー使えよ?わかったな?」
「……大丈夫、なんでしょうか」
「ん?ああ…たぶんな。一応オレさまも見回りに…」
「い、嫌です!一人になるの……」

一通り電話を終えるとキバナさんは、見回りに行くと言い出した。この人、あれがどういう状況かってわかってて隠しててくれたんじゃないの?それとも…意外と天然?だから彼女いないの?

「悪かった。冗談だ。オマエの困った顔が見たかった…そう言えば許してくれるよな?」
「……何ですかそれ」
「ほう、今度は怒ってんのか。かわいいなあ、オマエ」
「じょ、冗談言ってる場合じゃない、です……」

びっくりした。そんな無邪気なおどけた顔で、まっすぐ一点にあたしだけを見つめてるなんて。さっき抱きしめられたことを思い出しちゃって、目を合わせられないし…。程なくしてちゃんとそらとぶタクシーを使って来たらしいダンデさんと合流して、近くのレストランに入った。


bkm
prev next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -