(ねぇ、知ってる?)


(誰もいない学校の屋上で告白をした人は)
(恋が実り、幸せになれるんだって)



昔からどこの学校にでもあるような噂がこの学園にも流れ始めたのはもう随分昔の話で、それは飽きることなく今も噂は流れ続けた。
そのせいで生徒は屋上に入り浸り、今でもサボり場と告白場として使われている。告白場はともかく、サボり場として使われている屋上が立ち入り禁止にならないのは、以前、そうしようとした教師が生徒から莫大な不満を受けたこと。…あとはまぁ、自殺しようとした生徒がまだ出ていないというのも理由の一つだろう。


「…どう思う、樺地」
「…ウス?」

書類整理をしている時に発見した紙には『最近屋上がゴミが散らかった状態になっていることが多いので綺麗にして下さい』という生徒からの悩みが書かれていた。
いつもなら知るかの一言で終わらせるか清掃会社を呼ばせるかで片付けるところだが、この『屋上』という単語は俺にあの噂を思い出させた。

「信憑性のない噂に頼るなんて俺様らしくもない、が……」


ーーーーーー俺には好きな奴がいる。因みに男で身長は俺より高い。しかし決してゴツいわけではなく、むしろ細い方で軽く心配になる。さらには眉目秀麗、頭脳明晰とまさに俺様と奴の為に生まれてきた言葉ではないのかと思われる程にその言葉に相応しい顔付きと頭脳。
そして崩されることのない、しかし確かに感じる熱い想いが秘められた冷たい表情。
どこをとっても俺様に勝るとも劣らない人間。そんな奴に引かれたのはある出来事が切っ掛けだった。あれは俺たちがまだ高一になったばかりの頃新入生トップで入学した俺様は「長いわ、それまだ時間かかるん?」


ふと気づけば丸眼鏡を掛けた男が目の前に立っていた。というか忍足、俺様の思考を遮るんじゃねぇ。

「自分の話が長すぎるのが悪いんやで。あんな自画自賛の含まれた手塚自慢、いつまでも聞いてられんわ」

そう言いながら手に持っていた委員会の資料を渡してくる。ふん、流石に仕事が早いじゃねぇの。褒めてやってもいいぜ。

「そらどうも。跡部もあんま手塚手塚言わん方がええで………手塚も、困っとるようやしな」
「………やっぱ、同性から好かれるのは迷惑ってか?」

一応解っていたつもりだがはっきりそう言われると少し辛いところはある。……これが手塚本人に言われたら立ち直れねぇかもしれねぇ………。


「いや…そうやのぉて、自分のファンが手塚に嫉妬しとるんや」
「……はぁ?」

耳を疑った。いや、忍足を疑ったと言う方が正しいな。元々胡散臭い奴だし。

「失礼なやっちゃな。用も済んだしおいとまさせてもらうわ」
「まぁ待て。せっかくだ、紅茶でも飲んで行けよ」

パチンッと指を鳴らすとすかさず樺地が紅茶を二人分用意する。逃げれる訳がないと最初から分かっているし、せっかく樺地が出してくれた紅茶を無駄にするのも気が引けるので、忍足は仕方なく普通の学校には無いような豪華なソファーに腰掛ける。

「それで?雌猫共がどうした」
「……自分のファンの子…言うても一部やけど…が跡部に好かれとる手塚に嫉妬して嫌がらせしとるらしいで」
「…手塚は男だぜ?」
「でも跡部は好きなんやろ?恋愛の意味で」
「あぁ…」

「恋愛に男も女も関係ないってのは自分が一番よう解っとるやろ」

そこで忍足は一口紅茶を喉に通すと、旨いなぁ…と呟いた。






*******



あの後、俺は走った。
テニス以外ではあまり走ることのない生徒会長の俺様は廊下を走るなという校則を破ってまで走った。
着いた屋上は澄み渡った空と小さく吹く風が心地よかった。

「樺地」

その一言で後ろから黙って付いてきた幼馴染みはいつものように返事をすると、スッとどこからともなくスピーカーを取り出す。
それを黙って受け取り、部活中であろうテニス部に向けて叫ぶ。
…因みに、この一連の動作にツッコミをいれる関西人は残念ながら今だに紅茶を飲んでいた。


「手塚ぁっ!」


キ――ン…

いきなりグラウンド…いや、学校中に響いた声。その声が我が校の生徒会長様の声だと解らない者はいなかった。
…因みに、例外なくその声を聞いた関西人は運悪く紅茶を吹き出していた。

「テメェが好きだ」

恥ずかしげもなく、いつものように堂々と言ってみせる。
部活中だった手塚は今、どんな顔をしているだろうかと頭をよぎった。
怒ってるかもしれない…。そう思うと少しだけ胸が痛んだが、言わなければいけなかった。

「解ったか、雌猫共」

これ以上、手塚に手を出すな

低く、地を這うような声での脅し…なんて軽いものではない。まさしく命令だった。










ガチャリ、

「早いお帰りで」
「忍足…まだいたのか」

数分後、あれから何事もなかったかのように生徒会室へと帰ってきた跡部。

「あんな人一人殺しそうな声出しとった割りには、機嫌良さそうやん」

何故かネクタイに小さくシミが出来ていた忍足が人のことを言えないくらい楽しそうに聞いてくる。

忍足、そろそろ出ていけよ

「もうすぐ、手塚がやってくる」

「そらそうやろ」

きっと校則を守って廊下を歩きながら、それでもいつもより速く此方に向かっている。いつもの無表情が崩れ、眉を寄せているに違いない。
それを考えると、楽しくて仕方ねぇんだ。

「嫌な性格しとるわ。さっきまで手塚に嫌われたらって思うだけでしょげとったくせに」

言っちまったもんはしょうがねぇだろ。あとはもう、手塚をどう落とすかしか考えてねぇよ。

「…ま、そっちの方が跡部らしいわ」






手塚はきっと、
屋上に向かって、その後、
この生徒会室に来るはずだ


あの仏頂面が
厳しい男が
優しい男が
俺の好きな男が

あの、俺に甘い男が、







(ねぇ、知ってる?)


(誰もいない学校の屋上で告白をした人は)
(恋が実り、幸せになれるんだって)



どこからともなく流れた噂。
それを実行するものは屋上が立ち入り禁止となった今では誰もいない。










※※※※※

塚(→)←跡だと言い張る。
中途半端にギャグいれるんじゃなかったかなぁ…。

てか低い声で跡部さまに叱られるとか少しうらやましい

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