近所に住んでいるお兄ちゃんはかっこよくて、頭も良くて、スポーツも出来る人気者。
そんな人を好きだと思ったのは多分幼稚園の時からで、完全に意識し始めたのは中学から。



……まぁ、だからなんだって話で、



好きだと言っても相手は男。俺も男。
好きだと意識した瞬間に絶望し、自分とその兄ちゃんを拒絶した。


俺が中学の頃は相手は高校生になっていて、向こうはモテたし恋人もいた。俺もそれなりにモテたからスグに恋人作ってあの人を忘れようとした…………まぁ、見事に続かなかったんだけど。


そして漸く諦めがついたのは、俺が高校。……相手は、親の仕事を継ぐために外国に行った頃だった。









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(今日の依頼は思ったより長引いたな…)

白い息を吐きながらケータイの時計を見るともう9時を回っている。丁度懐が温まった所だ、晩飯でも食べて帰るかと思った時にその声が俺の耳へと届いた。


「銀時、」


低いのに透き通るような声は記憶の中のあの人と同じ……いや、今の方がもう少し低い。
そんな聞き覚えのあると言うか、……大好きだったその声に俺は夢のように思いながら後ろを振り向いた。

「……にぃ、ちゃん」

言葉にすると恥ずかしさが込み上げてくる。久々に呼んだその名前はもう大人になった自分には違和感の塊となっていた。

「そう呼ばれんのも久しぶりだな」

少し笑いながら此方に来るあの人は自分より少し目線が上にある。抜かせなかったな……ーーーーーーまぁ、子供の頃はよく解っていなかったがこの人はクォーターで、外人の血も混じってるわけだからしょうがないかとボンヤリ思う。
因みに俺は銀髪だが純血の日本人だ。

「…帰って来てたのか」

「三日前にな。つーか相変わらず目立つ髪してるな」

髪をそっと撫でる仕草はどこか色っぽい。無駄にフェロモン撒き散らすんじゃねーよ、バカ。


もう会うことは無いと思っていた初恋の相手との久々のご対面に柄にもなく緊張する。
そんな俺の心が分かっているかの様にクシャリと俺の天然パーマを撫でる手は優しくて、でも、やっぱり恥ずかしい。

「止めろって、…もう、頭撫でられるような年じゃねーよ」
「アーン?反抗期か?ガキの頃は喜んでたじゃねぇか」
「いやいや、いくら俺がいつまでも少年の心を持ってるからってそれはねぇよ」

相変わらずこの人はボケなのか天然なのかよく分からないことを言う…。手を払い除けようしながらそう言うと、逆に頭を強く握られた。……いや、握られると言うより、

「いたたたたっ!」
「ったく、年上には敬語を使えって言ってんだろーが」
「あたたたた、アンタが敬語って言うとダジャレにしか…いたたたたた、痛い!マジで脳みそ出るかもしんない!!」
「アンタじゃなくて跡部さん又は景吾さん、両方嫌なら様を付けろ」
「最後がおかしいんですけど」

ツッコミを入れると冗談だと笑いながら言い、ようやく手が話されたが、その後に少しの沈黙が流れる。
急に何も言わなくなった……跡部さんを不思議に思い、自分より上にある顔を見た。


「…銀時、」


…その顔は、


「………な、んだよ」



…その瞳は、



「…俺、




結婚することになった」
















とても、……悲しそうに見えた






「………は?」

「つーか、日本に戻ってきたのも結婚する為でな。結婚相手、イギリスで知り合った人なんだけど日本が好きらしくて、結婚式も日本で挙げたいって言ったんだ」

悲しそうに見えたのは一瞬ですぐにいつもの見慣れていた跡部さんに戻った。
でも、そんなことはどうでもよくて、ついでに言うと跡部さんの言っていることなんて全然頭に入らない。
は、何?結婚?この人が?いや、まぁそろそろいい歳だもんな。そりゃあ結婚くらいするよ。良かったじゃん、おめでとさん。…って、言えよ俺!!口に出せ!!


「銀時!?」


ほら、言えよ!たった五文字じゃねーか!!何で言わねぇんだよ!何で………言えねぇんだよ…



「何、…泣いてんだ」


泣きたくて、泣いてんじゃねぇよ…


祝いたい。その気持ちは本当で、この人が幸せになってくれるんならそれで良いとも思ってる。
それでも、自分の気持ちにも応えて欲しいという気持ちがあるということも否定できない。いや、むしろそっちの方が大きかった。


「銀、」「俺は!!アンタのことが好きなんだよ!」



「ずっと好きで好きで仕方なかったのに、アンタは外国に行って!俺の手の届かねぇようなトコに行っちまった!んなもん、もう諦めるしかねぇのに、心ん中ではズルズル引きずって、漸く会えたと思ったら結婚って……………祝えるわけねぇだろ…」


哀しみか、この人の結婚相手への嫉妬かで震える身体を自分の手で抱き締める。
涙よりもこの後の展開のことしか頭にはなく、その結末を想像し、目を強く瞑る。


「銀時…」



----優しい声がした。



だけど、それと同時に、






音が鳴った------





♪〜♪〜





その音に息詰まっていた俺は思わず肩が上がった。しかし、驚いたのは俺だけではないらしい。音源は携帯の着信音のようで、跡部さんは急いで携帯を手に取る。


「(…おいおい、タイミング悪すぎんだろ)」


何となくだが分かる電話相手に毒を吐く。
電話を切り終わって跡部さんは一度溜め息を吐き、俺の名前を呼んだ。その声には先程の優しさも、いつものような甘さも含まれていない。




「…すまねぇ」




----…何でだよ。

さっき、あんなに優しい声で呼んだくせに。…もう分かってんだよ、アンタも、俺が好きだって…。



言うのが遅かった?
それとも同性だからか?



今何を思っても、既に手遅れだ。今の俺にはこの人が述べた否定の言葉を受け入れるしかない。

祝いたい。その気持ちは本当。だけど自分の想いに応えて欲しいという気持ちもある。でもそれは無理だった。
それなら、






「……結婚、おめでとう」







祝うしか、…ねぇじゃねぇか……




哀しい幸せ
(貴方が幸せなら)
(俺も幸せ)








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設定をいかせなかった!
跡部さまは元から頼れるお人だけど銀さん!寧ろ聞き分け良さそうだな…。
両片想いなのに報われないっていいですよね



お題配布元:秋桜

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