coincidence 『けぇごー、はやくあそびにいこうぜぇ!』 口から白い息が出だすようになった日、少し曇りがかった空をふと足を止めて見上げていると、先を歩いていた奴等が声をかける。少し小走りするとすぐに追い付いた。 『今日は何する?』 『おにごっこがいいな…』 『じゃぁそれな!けぇごもそれでいいだろ?』 ワイワイとはしゃぐ奴等を見て考える。足は落ち葉を踏みながら自然といつも遊んでいる公園に向かっている。そこはテニスコートもあり気に入っている場所の一つではあるが、何故だか今日は気が乗らない。 『べつに何でもいいが…。いつもとちがうとこに行くぞ』 『?…なんで…?』 『あそこ、さいきん人がおおくなってイヤなんだよ』 『へんなのぉ〜、けぇごひとがおぉいのすきじゃん』 『気分じゃねえんだよ』 『フーン…。じゃあ、僕の家の近くの公園にしようよ。そこなら人は少ないと思うよ』 一緒にいた一人の提案で人気の少ない公園に来た。古くさい公園で確かに人も少ない。というか、自分達しかいないのではないかと思って敷地内に入ると公園のベンチに一人、俺達と同い年くらいの男の子が本を読みながら座っていた。 『げぇ…!あいつ、かばじじゃん』 他の奴等もその存在に気付いたようで反応は様々だったが、どいつもいい顔はしなかった。 『アーン、てめぇらの知り合いか?』 『けぇごしらねぇのかよ』 『……かばじは、ぼくたちのいっこしたのこ』 『最低限のことしか話さないで、無表情だし気味が悪いってこの辺では結構有名だよ』 ここで遊ぶの少し躊躇う様子で会話をし始めた奴等を放っておいてソイツの様子を伺う。本を読むため下を向けているのでどんな顔をしているのかは解らない。ただ、俺の一つ下にしては体格は大きい。 ジッと見ていると不意に相手が顔を上げ、目があった。何故か俺もあいつも逸らすことをせず、俺にとって長い時間の様に感じたが多分それは一瞬の出来事で、仲間の一人に声をかけられたことであいつから視線を外した。 『なぁ、ここであそぶのやめよぉぜ。あいつきみわりぃし、かかわりたくねぇよ』 一人が裾を引っ張ってくるのを見て考える。何となくだが、アイツがそこまで嫌われるほど悪い奴にも嫌なやつにも、気味の悪い奴にも見えなかった。 もう一度視線をアイツにやるとまた目が合う。…と言うかさっきからずっと見ていたようだ。不思議な奴ではあるな。そう思った所で急に本を閉じコチラに向かってきた。 奴等もそれに気付き少したじろぐ。年下相手に何やってんだ、と少し呆れるが無表情でコチラに来る様は確かにあまり見ることのない光景だが、恐いとは思わなかった。 『(ま、俺様がだれかにビビるなんて最初からありえねぇが…)』 そんなことを思っている間に目の前にまで来た。俺の前で止まり、コチラを向いたままピクリとも動かない。他の奴等は俺から数メートル離れて様子を伺っている。 一応公園の入口に立っていたので邪魔だったのかと思い、入口から少しずれるがその後についてくる。まるで雛鳥が親の後ろについて歩くようだと思った。 ……入口にいてそれが邪魔だった訳でないとすると、 『おまえ、俺様といっしょに遊びてぇのか?』 最後にアーンと付け加え、少し下にある顔に向かって言う。 案の定、無表情のままコクリと頷いたのでニヤリと笑う。 『いいぜ、遊んでや…『ちょっとまてえぇぇぇぇ!!』……何だよ』 今まで黙って見ていた一人が大声を上げ、俺たちの間に無理矢理入り込む。 『きょうはおれたちとあそぶやくそくだろぉ!!』 『コイツともいっしょにあそべばいいだろ』 『ぜってぇいやだ!!』 この時のコイツの目は、得体の知れない余所者を見る目付きだった。自分の知らない奴が急に仲間に入るのに違和感が拭えないのだろう。 ……多分、普段の俺なら全く同じ意見で同じことをすると思う。 だけど、今日は…… 『それならお前らは三人で遊べばいい。俺はコイツと二人で遊ぶ』 ***** 『……すみませんでした』 『…なにがだ』 公園のベンチに座るとそんな言葉が隣から聞こえてきた。なにが、とは聞いたがコイツの言いたいことはだいたい分かる。大方、自分が話しかけたせいで先程涙目になりながらバーカと吐き捨て公園から出ていった奴等と喧嘩してしまった。とか、そんな感じだろう。 『…さっきの、人たちと…』 『気にすんな。テメェのせいじゃねぇ。俺がテメェと遊びたかったから帰らしただけだ』 それより、とベンチから立ち上がり正面から向き合う。少し困惑した様子で自分と同じように立ち上がる奴を見て少し自分より大きいということに気付いた。 『てめぇの名前をおしえろ』 『名前…ですか?』 『あぁ』 『でも既に知って『それはあいつらから聞いたからだ。おれはてめぇの口から聞きたい』』 それに、知ってるのは名字だけで、名前は知らないからな。 そう付け加えて言うと奴は少し顔を下に下げて口をモゴモゴさせるが。それが少し可笑しくて俺は口許を緩ました。 『……かばじ、…むねひろ……。です……』 『…むねひろ、か…。おれはあとべけいごだ』 『あとべさん…』 『あぁ、今日からよろしくな』 それからは早いものだった。 俺と樺地はまるで前から知り合いだったかのように急激に仲良くなり、毎日あの人気の少ない公園で遊んだ。俺が樺地にテニスを教えると樺地は直ぐに打ち合えるようになり、楽しい日々が過ぎていった。 ーーーーーー俺の中に、少しの違和感を残したまま… → back |