白紙の手紙
2年の頃、一度だけ下駄箱に入っていた手紙。特に鈍い訳でもない俺はそれを見て少しの間自分の中の時が止まったが、その後慌ててソレを鞄にしまった。
1人になって柄にもなく心臓の音を大きくさせながら開いた手紙には……何も書かれていなかった。
女子の使いそうなファンシーな紙に何も書かれていないということを理解した俺は東堂と新開の元に殴り込みに行ったが、どうやら彼らがやったわけではないらしく、結局犯人は分からないまま時間が過ぎていった。
ただよくみると、最初の方に何度も書き直したような痕が残っていた。
白紙の手紙
走っているとそれだけに集中出来るから良い。だけど自転車を降りてしまえば一気に意識は違う方向に引き寄せられた。
(福ちゃん…)
それは自分の元チームメイトであり恩人であり親友であり、…今一番好きな相手である金髪の彼。大学生になって初めての雪が降った今日、暖房のない部屋で1人毛布の中で丸まっていると不意にあの鉄仮面が頭に浮かんだ。
卒業してから会ってないとか連絡を取ってないというわけでも無いが、足りない。高校の時はほぼ毎日顔を会わせていたからそう思うのも無理はないのかも知れないが。
会いたい会いたい、と心の中で呟くが、自分でも分かっていた。今福ちゃんに会ってもどうせまた辛くなる。好きという気持ちが抑えられなくなって、だけど告白する勇気も押し倒す度胸も無いから何か理由を付けて彼の前から逃げ出す。
「あ゙ぁ!ックソ」
もやもやとした気持ちを吐き出すかのように叫んでも何も変わらなかった。
このまま二度寝でもしてしまおうかと思った時、ケータイが短く震えた。取って見るとただのメルマガで余計に気分が悪くなったが、その後ほぼ無意識で俺はメール画面を開いた。勿論、福ちゃんへの。
彼に何か言うつもりなんてさらさらない。言える筈がない。しかし画面には今思っている気持ちがどんどん打ち込まれていく。
会いたい
好き
大好き
声がききたい
福ちゃん
辛いヨ
福ちゃん
福ちゃん
・
・
・
元々ボキャブラリーの少ない自分ではスグに書きたいことが沢山あるはずなのに、何も書けなくなった。けれど丁度虚しさも感じていたので最後に『好き』と打ってから文章を全部消した。
そしてメール画面を閉じようとした時、誤って送信ボタンを押してしまった。本文を全部消して油断していたかもしれない、感傷に浸っていたのかもしれない、もしかしたら寒くて頭が働いていなかったかもしれない。
言葉にならない声をあげても画面には送信しましたの文字。
ヤバいヤバいと思いながら慌ててメールの送信ボックスを見ると福富寿一宛に件名も本文も書かれていないメールが送られていた。やってしまった、と枕に顔を埋めて思う。
無性に泣きたくなった。
※※※※※
配布元:
秋桜
自分でも試してみたんですが本当に件名も本文も入れずに送れてビックリしました。
※※※※※
prev /
next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -