能ある鷹は爪を隠す

※大学生設定

「最近、家にいると視線を感じる」


そんな何気ない俺の一言から俺の思い人である名前はノコノコのん気に俺のアパートにやってきた。
高校の時から一緒でバスケ部の二軍だった。
緑間と同じポジションであるということで同じポジションで同世代の奴らは諦めたというのに健気に練習する姿はカントクも認めていたしレギュラーのみんなも、あの緑間さえも気にかけていた存在だった。
結局3年間ユニフォームを渡されることはなかったのだけれどそれでも本人は歪むことなく笑っていた。
そんな姿が好きで大好きで大学も同じ進学先にしようって決めていた。
そしたら「今度は俺が和成のパートナーな」だなんてまるでプロポーズみたいで嬉しくて。
でもそんな明るくて健気で真面目な名前は人気者だった。(確かに俺も人気といえば人気だったのかもしれないのだけれど)
そしたら狭い高校の教室と違って広い大学のキャンパスでは中々会えなくて寂しくなって、ついこんな嘘を吐いてしまった。
友人のためなら名前はすぐに来てくれるから。
騙してごめんねって思いながら俺は大学の近くに借りたアパートの中に招き入れた。
六畳半の一室と風呂と便所とキッチンがついてる部屋は片付いていなくて名前はテキパキと洗濯とか始めちゃって俺と違う意味でスペックが高いって誰かが言っていたけれど、それって女子力のことなの?


『んで、視線だっけ?』


「え…、あ、そうそう何か家にいると妙に感じるっていうかさー」



『ふうん…』


一人暮らしにそれは怖いな、と真剣に心配してくれる名前。
本当はここらへんで嘘でしたって笑う予定だったのだけれど。


『じゃあ俺がたまに寝泊りするよ、そしたら不眠症とかストレスとか発散できるだろ?和成がいくら明るいからってきついだろうし』


そんな言葉に開かけた口を閉めた。
嗚呼、俺の名前は今日も愛おしいです。
俺の嘘に気付かない優しい君を何時か誰にも触れさせないように。


『とにま母さんには今日泊まること連絡しといたから和成は料理、俺は掃除な』


「りょーかいっ」


俺は笑うのです。
自分の中にあるまっ黒な感情を隠すように笑うのです。
名前が俺を信頼してくれるから。
今日も俺は笑うのです。(内に秘めた凶器と狂気を隠すように)


「お待たせーキムチ鍋ーって綺麗すぎ!名前ちゃんすげえ!」


買ってきた食材と棚の奥にあったキムチ鍋のモトで夕飯を作っている間になんと名前はあれだけ汚かった部屋を綺麗に整理整頓してしまった。
本人はまだやりたりないのかゴシゴシ窓を拭いているけど…。


『お、腹減ったー』


こういうとき部屋が狭くてよかったなって思う。
名前との距離が近いから嬉しくなったりする。(計算?まさか)
お互いにまだ若い男なんでぺろりと完食してしまう。
俺の小さな嘘が一週間に一度のお泊り会を作ってくれた。

名前がシャワーを浴びている間に携帯の履歴を確認したり人間関係を調べたりすることが多くなって一週間のお泊り会にも慣れてきたころ。
名前が同じ学科の男と仲良く歩いているのを見つけた。
恐らくあれは多発的にメールや通話をしてくる男に違いない。
お泊り会のおかげで名前のなにもかもを知ることが出来た俺は嫉妬を募らせる他なかった。
何時か束縛してやろう、監禁でもしてしまおうかなんて考えているけれど実行に移せないのは名前が何気ない一言を言って怒りを鎮めてくれるから…。


『カレーのあまりあったら頂戴』


「え?」


『昨日あたりカレーだったんだろ?』


なんで分かるの?って聞くと俺の首元の匂いを嗅いで『和成の匂いと、少しカレーの匂いするから』なんて微笑んでもらえるだけで俺は幸せなのです。
俺の少しの変化に気付いてくれるんだって俺は特別なんだって思えるから。
俺って単純だな、名前がほしいけど笑っていてほしいから。




『…つか、やっぱりあの視線って気のせいなんじゃね?』


「ぶほお!」


『きたねえ!!』


ある日の昼食時間。
たまたま(ではなく名前の講義が終わる時間を把握して待ち伏せしていたのだが)会った名前と学食で食べることとなった。
そして突然の言葉に飲んでいた水を吹き出した。
いきなり確信をつかれてしまった。
なんだかんだと名前が俺に騙されてお泊りをしてくれるようになって早半年。
まったくもって視線も何もない(当たり前だ、嘘なんだから)ことを不審に思われてしまったのだろう。
疑いの視線に内心ドキドキしながら「え?まじ?」といつも通り受け答えする。


『正直レポートきつくてさ、そろそろいいかなって何かあったら連絡してよ行くから』


そんなこと、そんな、なんで。


『和成ん家泊るの土日じゃん?バイトとかいれたいしさ』


分かっている分かっているんだ。
この言葉は俺の家に泊まることを否定しているわけじゃないって。
だけどだけど、プツンと俺の中の糸が切れてしまった。


「じゃあ最後に今日、泊まりに来てよ!」


今日で最後にしよう、名前を傍に置かない毎日は。
ねえ、知らないでしょう?
俺はお前と一緒にいないと一時間でも一分でも本当は気が狂ってしまいそうになるんだ。
だから俺は笑って言うのです。
ばれないように笑うのです。
名前が信頼して俺の部屋に入るまで笑い続けるのです。
(愛してると心で何度も囁く声が聞こえないように)





『…知ってるよ、そんなこと』


しかし、どういうことでしょう。
俺の方が包丁を突きつけられているのは何故でしょう。
どうして名前のリュックから包丁が出てくるんでしょう。
どうしてその包丁は少し曇っているのでしょう。


『だって俺は高尾のことずっと見ていたんだから』


名前が指をさした俺の部屋の壁に小さな二つの穴があるのはなんでなんでしょう。
隣の部屋は誰が住んでいたのでしょう。
いや確か表札なんてなかったから。
でも確かに名前は座るとき必ずその壁に寄りかかっていた。
視線何て感じなかったはず、あれは嘘だったはず。


『びっくりしちゃったよ、高尾が視線を感じるっていったときバレタと思ったから』


でもよかったばれていなかったんだね。
そう微笑んだのは誰?
お前なんて知らない、俺のことを「高尾」と呼ぶお前は誰なんだ。
その顔は確かに名前のはずなのに。


『そのあと嘘に乗ってお泊りしたいって言えば許可するんだから楽だったよ、俺の作った着信履歴もメールの内容も高尾は見てくれたから俺のことを思って仕方なくなる高尾を見ていると興奮した』


俺の携帯電話には高尾のメアド以外入ってないんだから。
ああ、でもさすがに両親とか先輩に連絡するには必要だからこっちの携帯にはあるけどって二つ目の携帯電話を出して笑う君は誰?

でもたしかに俺に包丁を突き付けているのは名前なのだ。
だってあの壁にあいた小さな穴を通してお前が覗いていたというのならば俺がカレーを食ったことくらいお見通しなのだ(文字通りである)


『高尾、分からないの?お前がなんで俺を自分の講義以外にストーキングできたのか』


「は?」


つか、俺がストーキングしているのは知ってたのね。


『高尾は友達多いから大変だったよ』


曇った包丁をちらつかせて。


『ダイジョウブ、殺してなんかいないよ、ただちょっとお願いしただけ』


高尾をもしも刺す日が来たらこの包丁では刺さないから安心して?
これで刺したらあの女の血やあの男の血が高尾の中に入っちゃうでしょ?
というよりも高尾がアイツらと同じ感触を味わうなんて考えただけで殺したくなる。
だから特別に高尾にはこれをあげる。


『こんな小さな針なら一回刺したくらいじゃ全然死ねないだろ?何万回何十万回させば死ねるかな…ずっと高尾の顔を見ていたい、痛がるとこ全部』


縫い針がこんなに怖く見えたのは初めてで。

『能ある鷹だけが爪を隠すわけじゃないんだよ?』


ああ、でもこんなにゾクゾクしてる俺も十分、狂ってやがる。

名前の手首を掴み上げて押し倒せば嬉しそうに俺を見上げる名前が見えた。


「何処に行っても逃がさないよ、俺の目から逃げるなよ」


『ふふ、逃がさないようせいぜい頑張ってよ…"和成"』


噛み付くようなキスは血の味がした。
それなのに甘いと感じたのは、きっともう神経が恋のせいでおかしくなってしまっているからなのか。

能ある鷹はなんだって?
まあお互いにストーカー仲間だったってことです(結論)
病んでる高尾書くの楽しいです
黄瀬バージョンもあります



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