はしたないと唾を吐いて

黄色の髪に事務所のプロフィール通りなら身長体重も同じ。
職業は高校生とモデル、ここも同じ。
クラスの女の子に大人気で運動も得意。
だけれど少し勉強は苦手。
コミュニケーション能力は二人とも高く、社交的で友人も多い。

黄瀬涼太と山吹名前は同じスペックを持ち、海常高校でも1位2位を争う男子生徒だ。
ここまで同じだと息も合う―…わけもなく。
彼らが学校で一番の犬猿の仲であることは有名であった。
しかも同じ学年であるおかげか顔をあわせるたび喧嘩になる。
2人が在籍する2つのクラスは彼らをどうにか会わせないようにしようとするが、どんな努力もむなしく今日も彼らは遭遇する。
―…ああ、ここまで同じだと思考回路や行動パターンも一緒になってしまうのか、誰かがそう呟いた。


「…」


『…』


時間は昼休み、場所は廊下。
2人ともクラスの女子生徒に囲まれながら歩いていた。
黄瀬は屋上に、名前は中庭に向かう途中で出会ってしまったのだ。
ニコニコと笑っていた二人の表情は開いてを捉えた瞬間に強張り、歩いていた足を止めた。
傍にいた彼らの同級生である男子生徒も、取り巻きをしていた女子生徒も「まずい」と瞬時に思う。


「あーあ、休み時間だってのに不快な顔みちゃったっすわ」


『それはこっちの台詞だよ、つかその口調って前から思ってたけどキャラ作ってんの?』


ビシィっと亀裂が走ったような感覚。
2人はお互いを睨み合い、威嚇する。
それを見た男子生徒たちは二人を止めに入る。


「おいおい、落ち着けってお前ら!」
「何でそんな喧嘩すんだよー」
「黄色コンビの癖に―…ひぃ!?」


「『同色にすんじゃねえよ…』」


「よく見てくださいっす!俺は三原色の1つっすよ!?山吹色は寧ろ俺の色を元にしたんすから同じにみられちゃ困るっすよ!中途半端な色してるから俺にひがむんすか?」


『三原色の何が自慢だボケが!黄色みたいな単純な色してねーんだよ山吹色は!赤が混ざった綺麗な色で黄金とも言われてんだぞバーカ!!』


「いや、俺らからしたらほぼ一緒だよ…」


髪色と名前からか、なぜか黄色で争う2人。
これももう学校では日常風景だ。
―…彼らがどうしてここまでお互いを嫌い合うか。
それは勿論、同族嫌悪もあるだろう。
しかし何よりも大きな原因が彼らの中学時代にあった。
彼らの所属する事務所が合併し、それを記念して企画したのが自分の事務所の一番同士をツーショットで撮ることだった。
それが黄瀬と名前の初対面となる。
最初お互いに顔を合わせたときはお互いに驚いたが仲が悪くなるようなことはなさそうに見えたらしい。
しかし―…何故か黄瀬のある一言で名前は不機嫌になった。


「わぁあ本当俺たちそっくりっすね!はじめまして俺は黄瀬涼太!涼太って呼んでくださいっす!!」


『―…はぁ?』


黄瀬には理由が分からないまま。
名前は舌打ちすると眉間に思いっきり皺を寄せて黄瀬が差し出した手を握りしめ返した。
思いっきり爪をたてて―…。


「いただだだだ!?」


『はじめましてぇー山吹名前ですわー山吹さんって呼んでください、絶対名前で呼ぶなカス』


初対面でこんな態度をとられてしまっては黄瀬も嫌うしかない。
しかし発売された雑誌に飾られた写真はそんな雰囲気を微塵も感じさせることなく美しく映っていたという…。
その雑誌は売り上げが高く、2人のツーショット写真はその雑誌のお決まりとなってしまったくらいだ。

…とまぁ、こんな感じで仲が悪い二人。
結局男子生徒たちが無理やり二人を引きはがして廊下での騒動は終わった。


「黄瀬と山吹って本当仲悪いよなぁ、仲良くなれそうなのに」


「最初っからあんな態度取られてどうやって良い印象つけろっていうんすか」


「まぁそうだけどさぁ」


最初会った時は仲良くなれそうだと思ったのに。
そう思いながら俺は女の子たちと昼休みを過ごし、授業を受けて部活に出た。

ふっと時計を見ればもう部活も終了時刻だ。
これから撮影だと思うと気が病む。
しかもあの名前とまたツーショットだなんて。
まぁ流石に俺もあっちもプロだから仕事に支障はきたさないけど…。


「じゃあ俺これから撮影なんで!!」


「おー、がんばれよぉ」


本当、せめて一人で撮るものだったらよかったのになぁ。
そう思いながら体育館から出ると日本の夏独自の嫌な湿気た暑さがする。
汗をしっかり拭いたというのに、また汗が出てきて気持ち悪い。
小走りで俺が校門に向かっていると人影が見えた。


「げ」


『…遅い』


校門の前に立っていたのは海常と胸元に書かれたジャージを着た山吹だった。
早くしろよ、と歩き出した背中には「サッカー部」と刺繍されていた。
待っていてくれたのか。


(っても、絶対いい奴とは思わねーけど!!)


『…』


「…」


こうやって俺たちは仲が悪いものの一緒に下校することが多かった。
もちろん仕事の日限定ではあるが。
バラバラに行ってもいいのだが事務所からの指示じゃ仕方ない。
お互い無言のまま夕陽が眩しい商店街を歩く。
もう太陽が沈むのが遅くなったんだな、そう思いながらフッと先ほど言われた男子生徒の言葉を思い出す。

―…黄瀬と山吹って本当仲悪いよなぁ、仲良くなれそうなのに

本当にそれは思っていたことだ。
同じ職業で同じ年齢で運動がお互い好きで。
苦労も趣味も話し合える中になれると思ってた。
どうして初対面の日、山吹は怒ったのか。
俺には理解できなかった。


「…山吹」


『何?』


視界に入った俺の髪が太陽のオレンジに照らされて山吹色に見える。


「俺初対面の時、あんたに何か嫌なこと言ったんすかね?」


『―…』


「それ、ずっと気になってたんすよね」


すると山吹はおもむろにスマフォを取り出して時間を確認すると『ちょっと寄りたいところあるんだけど、いい?』と問われた。
こんなにお互いトゲトゲしない会話は初対面の時以来じゃないだろうか。
俺が頷くと商店街の脇に入って住宅街を抜けて公園に着いた。


『ここで俺、餓鬼のとき遊んでたんだ』


「…」


『今じゃ早く帰りたいと思ってるのに不思議だよな、昔はまだ家に帰りたくないって思ってて時間が過ぎるのが早かった』


もう18時を回りそうで子供の姿はない。
小さな公園、俺もよく遊んでた。
真ん中にある柱時計の針が進むのが早くて仕方なかった。


「…って、ちょ山吹!?」


すると俺たちしかいない公園でカバンを置くと砂場で遊び始める山吹にギョッとする。
何してんだ、これから撮影なのに。
俺が茫然と見ていると『早く手伝え』と睨まれ渋々と砂場で山を作る。
何してんだ、本当。
高校生にもなって男二人で砂場で山作って…。

俺は山を作りながら相手を見る。
まつ毛長いし、やっぱ今更だけど顔整ってんな。
何時も顔を合わせるとお互いの顔なんてしっかり見なかったから。
餓鬼の頃とか女の子とかに間違えられるタイプだよな、こういうの俺も経験あるし。


(女の子…?)


何か、思い出しそうな…。
確か小学生くらいんとき?
俺と同じような黄色の髪の子と一緒に遊んでたような…。
いや、でも確かその子は女の子だったはずだ。
だってこう…目がくりっとしてて小さくて髪が少し長くてかわいくて…。
こういうふうに砂場でよく山を作ってた。


―…引っ越しちゃうの?行かないで、俺と一緒にいてよぉ
―…りょーた、ごめん戻ってきたらまた遊んでくれる?
―…うん、約束だよ
―…それじゃあ、またね


(…そういえば俺のどこの言葉に山吹は苛立ったんだ?)


こんな幼い頃を思い出す前に山吹が起こった理由を考えるべきだ。
そう思って俺は1、2年前を思い出す。
俺、あのときなんて言ったっけ?
初めまして黄瀬涼太です涼太って呼んでね…うん、確かこんな感じだった。
え?普通じゃね?
名前は最初から馴れ馴れしかったとか?
いやいやそれだったら『苗字でお願いします』くらい芸能界で生きているなら言えるだろ。
じゃあ「はじめまして?」


「…」


―…それじゃあ、またね
―…待って!俺、俺ね君のことが好きなんだ、だから…
―…え、でも、僕…
―…だから戻ってきたら俺のお嫁さんになって


名前。


「!!??」


思わず立ち上がるが山吹―…名前は気にした様子もなく砂場で作った山を崩して、ゆっくりと立ち上がると両手についた砂埃をパタパタと叩いた。


『本当はもっと早く言えばよかった』


「…も、もしかして」


(あんな子供のころの約束を覚えていてくれて…それを忘れた俺に怒っていたんすか!?)


ドッドッドっと心臓が高鳴る。
公園で遊んでいた子が男だってことにショックを受けながらも覚えていてくれたことの嬉しさと運命的な再会に俺は高揚していた。
それで怒っていてあんな態度をとっていたのかと思うと愛おしくてかわいくて仕方なかったのだ。


『俺さ、餓鬼の頃、黄瀬に似た奴と仲良くてさ。俺のこと女だと間違えてたんだけどプロポーズ受けたんだよ』


「え?」


黄瀬に似た奴?
なんだか嫌な予感がする。


『最初会った時、黄瀬がその子だと思って「初めまして」とか言われてイラッてして』


あんな態度とっちゃったんだ、と反省した目をする。
ヤバい、このまま謝られたら俺はタイミングを完全に逃す。
このまま有耶無耶になってしまったら大問題だ。
名前は今、俺とあの時の子供が違う人物だと思っている。
初めてであったとき、名前はあの時の子供が俺だとすぐ判断したのに俺が思い出せないから人違いだと思ってしまったんだ。
これじゃ気まずい関係になってしまう。
だったら喧嘩する関係の方がまだよかった。


「あ、あの!!」


『本当ごめん、すごく似てたからさ。今度お詫びに何か奢るから』


「だ、だからね、俺…!」


もう時間だし、行こうかと言われ俺はムカッとして声を荒上げた。


「聞けよ!!」


『!?』


目をパチパチとさせて俺を見る名前。
あ、やばい、どうしよう。
あの時の女の子(男だったけど)だと思うとヤバい。
初恋だったしプロポーズまでしちゃって、相手はそれを覚えていてくれて。


『…黄瀬?』


「うぉう!!」


『…何変な声上げてんだ、撮影場所行くぞ』


(あ、あ、あああああああー!!)


俺はグルグルとしたまま撮影場所に着いた。
「今日は二人とも喧嘩しないのね」とメイクさんに茶化されて俺は黙ってしまうし名前は『ちょっとね』と言うだけだった。
そんな俺たちを見てカメラマンさんは目を光らせた。
「今日は何だか何時も格好いい2人以外の顔が撮れそうだ」と。


結果―…今月の雑誌の表紙は町の中を買い物袋を持って歩く2人であった。
…が、その表情は何時もと異なり格好良く決めていたり高校生だとは思えない色気を見せていたりするものではなかった。

少し寂しそうに笑う山吹名前を横目で見つめるもどかしそうな表情の黄瀬涼太の姿。
何時もと違う二人の雰囲気に興奮した一部の女子にバカ売れしたらしい。


「黄瀬くんと山吹くん、喧嘩減ったんだって」
「そうそう、何だか2人とも目が合うと視線逸らすとか…」
「え!?なにそれついに私の妄想が現実に!?ケンカップルもありだけどそれは…!!」


(完全に言うタイミング逃しちゃったっす、)


(黄瀬には悪いことしてたよな…)


((これからどうしよう…))



そんな彼らをくっつようと腐女子たちが大応援…!?(嘘予告)



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