苺ジャムと砂糖菓子


※いろいろ注意
一応R15

ふわふわとした甘いもの。
口に含むと舌の上をトロリと溶けていくわ。
喉の奥まで伝って、また欲しくなる。


「名前ちん!これも美味しい!!」


キラキラとした紫色の瞳と赤く染まった頬。
口の周りには生クリームと苺ジャムを付けて愛おしい。
紫原敦は俺の同級生であり、俺の料理を食べてくれる存在だ。
ケーキ作りが好きな俺だがケーキ自体はそんなに食べることができない俺の救世主。
最初はどこから嗅ぎ付けてきたのか俺が寮のキッチンを借りて作っていると、ドアを開けてヒョコッとやってきた。
「おいしそうなにおいがするー」と言われ俺は最初驚いたが(勿論身長にだ)手招きをして完成したケーキを与えれば「美味しい!」と大袈裟に言ってくれた。
「美味しい」「美味しい」と何度も言うもんだからお世辞かと思っていた。
だから試しに冗談でホールごとあげてみた。
すると幸せそうに食べきってしまったのだ。
体格のおかげがホールごと食べる姿に違和感を感じなかった。

元々料理が好きな俺は紫原に週に一度だけケーキを作るようになった。(本当は毎日でも作りたいが流石に体に悪そうだ)
飽きもせず食べに来てくれる紫原に俺は何時しか恋心を抱くようになっていた。
それは紫原も同じようで。
俺たちは校内でも有名な「両片想い」というやつだった。
お互いが知りながらも何故か告白まで踏み出せない関係。
それでも俺はよかった、心地よかったから。


お砂糖とココア、バターに卵にラムレーズン。
君の好きなブラウニー。


「試合終了!誠凛高校の―…」


タオルを被って泣く紫原。
綺麗だと思った、愛おしいと思った。
右も左も分からない東京にやってきて紫原の好きなブラウニーを焼いて持ってきて応援に来た。
けれど結果はギリギリのところで逆転されて負けてしまった。
紫原や氷室先輩の喧嘩の内容や紫原のバスケに対する気持などは何も知らなかったけど。


(このブラウニー、無駄になりそうだな)


さすがに負けた後食べる気にはならないだろうし。
俺は観客席を後にして廊下を歩いた。
持ってきたブラウニーが突然重く感じた。
泣いて敗北を噛み締める紫原と、氷室先輩が少し嬉しそうに微笑んでいて、みんなが紫原の頭を撫でて何故かすっきりしたように去って行った。


(俺の知らない、顔だった)


何時もみたにふわふわした笑顔でケーキを食べる姿じゃない。
目を見開いて汗をダクダク流して叫んで怒って、本能をむき出すように。


(あ…れ?)


ぞくぞくっと何かが俺の背筋に触れる。


『…』


「あ…っ、名前、ちん」


立ちつくしていたのか、ジャージに着替えてきた紫原がやって来た。
ハッとして俺は上を向く。
さっきの試合の後で俺に会いにくかったのか、視線をうろうろとさせている。


「あ…お菓子、」


『うん、お疲れ様、紫原』


「!!」


わぁいっとブラウニーを食べだす俺がいつも見る紫原。
口の周りにチョコレートをつけて頬張って幸せそうに。


(…俺、どうしちゃったんだろう)


お砂糖とバター、苺に生クリーム、ブランデー。
さいごの仕上げに愛を囁くように振りまいて。
苺のケーキの出来上がり。

今日は紫原に苺のケーキを作りました。
紫原は幸せそうに食べました。
何時も通り頬に生クリームを付けていたので俺は指で掬ってあげました。
すると紫原は俺の指を舐めました。
これでまだ付き合っていないなんて信じられないと友人に言われてしまいました。

お砂糖と薄力粉、卵にグラニュー糖にサラダ油。
最後の仕上げに愛を囁くように振りまいて。
シフォンケーキの出来上がり。

今日は紫原にシフォンケーキを作りました。
紫原は幸せそうに食べました。
何時も通り食べかすを頬につけていたので指で俺は取ってあげました。
すると紫原はがっつくように俺の指を噛みました。


「…名前ちんのケーキ、甘くておいしい、もっと食べたい」


そう言うので今日は特別にもう一つお菓子を作ってあげました。
マドレーヌは初挑戦だったけど上手くできました。
「もっともっと」と紫原は言いましたがこれ以上食べると身体に悪いので止めました。
すると紫原は次の日苛立ったようにしていました。
誰も苛立った彼に近づこうとはしません。
何時もの緩い彼はどこにいってしまったんだろう、と誰かがつぶやきました。


お砂糖とバター、愛と全てを詰め込んで。
最期に何時も通り魔法をかけました。


『美味しい?』


「うん、名前ちんのお菓子、食べてないと最近イライラしちゃうし」


『なんだそりゃ』


「他のお菓子なんて、全然駄目」


マフィンにパウンドケーキ、ロールケーキ、クッキー。
食べるのを辞めない紫原を俺は微笑んで見つめる。


『そろそろ身体壊しちゃうから止めない?』


「…やだー」


『ほら、もう…なくなっちゃったじゃん』


「あ…」


何時の間にか食べきってしまったお菓子の山。
ハァハァッと紫原は荒い息を上げる。


「お願い名前ちん!早くお菓子作って!じゃないと俺…!俺可笑しくなっちゃう!!」


『で、でも材料が…砂糖しかないんだ』


「もうそれでもいい、じゃないと俺名前ちん食べちゃいそう」


俺はその言葉に微笑んだ。
そして頭からかぶるように「お砂糖」を振りかけた。


『食べていいよ』


一瞬でも目を離したときに自分の知らない顔をしてる。
誰かと会話してるんじゃないか。
見える場所にいない相手は今どこでなにをしているのか。
怖い、怖いの、とっても恐ろしいの。
だったらいっその事ひとつになってしまいたいの。
関係も言葉も依存も束縛も、愛を誓った証明の指輪ですら。
恐怖を全て取り除けるわけがない。
怖い、怖いわ、何もかも知らないと恐ろしいの。

だから俺は貴方の血肉となって、そのまま溶けてしまいたい。
貴方のことを完全何もかも理解してるわ、なんてどんな世界中の恋人も家族もありえない。
だって身体が違うんだから。
俺の痛みは貴方には伝わらない。
だってあなたと俺は違うんだから、違う身体何だから。


(これで、もう、君も俺も誰にも知られない場所にいけるね)


「…名前ちんって、とっても甘いんだね…苺ジャムみたい」


血肉と魔法のお菓子

解説
紫原に与えていたお菓子は陽泉戦以降から麻薬が含まれています
「さいごの仕上げ」がそうです
※薬物は法的に禁止されていますので絶対にやらないでください
なので紫原は他のお菓子に見向きもせず名前の作ったお菓子に依存します
そして最終的に名前の体にかけられた薬を見て彼を食べてしまいました
すでに薬でやられてしまった紫原は愛する人を食べても気にした様子はありません

名前について
恋愛に臆病な少年です
被害妄想が激しい、自意識過剰という言葉があいます
つまり自分が見ていないところで相手が何をしているのか分からないことが不安になってしまうようです
きっかけは試合の紫原を見て
何時もは笑ってネジの緩い紫原を見ていましたが試合中の紫原を見て目覚めてしまったようです

紫原にあげた薬は他にもあります
「君も俺も誰にも知られない場所」にいけるのですから
その薬はもちろん…



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -