貴方のいない未来がずっと続いていく

『ねぇ、メアリー本当にこんなことするのかい?』


「だって外の世界、気になるでしょ?」


何時も風景画ばかり眺めてるの知ってるんだから、とメアリーは言った。
俺が『でも』っと渋るとメアリーはグイッと腕を引っ張った。


「いいから!一緒に出ようよ!お兄ちゃん!」


無邪気なメアリーの、妹の笑顔に俺は笑いかけた。
ふっと見れば運悪く迷い込んだ少女と青年。
赤い薔薇を持つ少女、イヴと青い薔薇を持つ青年、ギャリ―。


(悪いなお二人さん…巻き込んじまって)


貴方のいない未来がずっと続いていく


「もしかしてあんたたちも美術館にいたの?」


そう俺たちに問いかけたギャリーさん。
その言葉をメアリーは肯定し、自分の名と俺が「お兄ちゃん」であることを2人に言った。
疑うことなく2人は俺たちと一緒に外に出ようと笑いかけた。
メアリーも同い年くらいのイヴが一緒に居てくれて嬉しそうにしている。
楽しげにしているメアリーを見ていると嬉しいが、2人を騙していると思うと心が痛む。


(いや…俺に心なんてあるはずがないか)


「あんたも大丈夫なの?顔色悪いわよ?」


『え…あ、はい、大丈夫です』


ならいいんだけどね…とギャリーさんは笑った。
ツキリと痛む胸。
心なんてあるはずがないのに、どうしてだろう…。


「危ない!!」


その声にハッとする。
ギャリーさんの手が俺の腕をしっかりと掴んで自分に引き寄せた。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん大丈夫!?」


メアリーとイヴ、俺とギャリーさんで二手に分かれてしまった。
原因は絵から突然出てきた石で出来た固いツタによって。
メアリーが真剣に心配してくれている…。
少しはギャリーさんのことも心配してあげなくちゃ演技がばれてしまうのに。
『大丈夫だよ、2人は?』と問うと大丈夫と返事が返って来た。
メアリーとイヴは身動きが取れなくなったギャリーさんと俺をおいて先に進んで行ってしまった。
何か壊せるようなものを見つけたら戻ってくるから、そう言い残して。


「…ねぇ、あんたたち本当に兄妹なの?」


『え?』


「いや、変な意味じゃないのよ。ただ髪色とか顔とかは似てないからね…嫌な質問だったかしら、ごめんなさいね」


『い、いえ…よく言われます…実際の兄妹じゃないですし』


「あら、そうなの?」


『はい、育て親が一緒…みたいな感じですかね』


生み親(作者)が一緒と言ってしまうと本当の兄妹になってしまうからとりあえず嘘を吐く。
そうなの、と俺の頭を撫でた。
餓鬼扱いされているけど俺は制作された時代的にこの人より少し年上だと思うんだけれどな…。
でも誰かに頭を撫でられたことなんてなかったから嬉しい…。


「頑張って出ましょうね、一緒に」


(一緒…)


ツキンっとまた痛む胸。
俺が座り込んで膝を抱えるとギャリーさんは慌ててしまう。


「どうしたの!?大丈夫?」


『分からないんです、胸が痛い…』


「ば、薔薇、薔薇は平気なの?」


俺はハッとして薔薇を隠す。


「どうして隠すの…?」


『…』


黙っているとギャリーさんは俺の薔薇が散りかけであると勘違いしたのか俺をおんぶした。
『え!?』と声を上げるとニコッと微笑まれた。
そして優しい声で「進みましょう、あの部屋に何かあるかもしれないから」と言った。
俺が薔薇を隠したのは造花だからなのに。
ギャリーやイヴとは違う、匂いもしない枯れもしない造花だからなのに。
少し大きな温かな背中の感触に零れもしない涙が落ちた気がした。


(メアリー、どうしよう…俺はこの人を裏切りたくないよ)


願わくば一緒に居たい…。
そう思ってしまう。
絶対に無理なのは分かっている。
出られるのは入ってきた人数分だけ。


「…そういえばあんたの名前聞いてなかったけど、なんて言うの?」


『…』


「まぁ、いいわね…このままでも」


ねぇ、メアリー。
やっぱり俺たちはここにいないといけないんだよ。
何時までもゲルテナの世界で一緒にいよう。
彼らには彼らの世界があるように、俺たちにも俺たちの世界がある。


『ギャリーさん、俺ね…貴方に出会えてよかった』


「な、なによいきなり」


『今、言いたくなったんです…必ず出てくださいこの世界から』


「…?」


知らない温もりをくれた。
外の香り、優しい声、これが友達…?
メアリー、君はどうだい?イヴと一緒に居て心が揺れ動くことはなかったかい?


「な、なんで…え?嘘でしょ…これメアリー…!?」


『!!』


ギャリーさんに背負われて揺れる感覚が気持ちよくて目を閉じているとギャリーさんが突然声を上げた。
俺が目を開けて見ればゲルテナ作品について書かれている本をギャリーさんが手に持っていた。


「どういうことなの…じゃあイヴと一緒に居るのはまさか…!」


『知っちゃいましたね…メアリーの秘密』


「え!?」


俺が背中から降りるとギャリーさんは顔を真っ青にさせた。
メアリーと兄妹である俺も疑うしかないだろう。
怯えるように一歩、一歩とずり下がる。
ズキンっとそんな反応に胸がまた痛くなる。
俺の後ろの壁に「知っちゃった 知っちゃった メアリーの秘密」と文字が浮かび上がり踊るように揺れ動く。


「じゃあ、あんたも…」


『はい、そうです…俺もゲルテナの作品の1つです』


「っ!!」


逃げ出したギャリーさん。
怯えるように俺から。


『行かないで…いかないでギャリー!!』


遠く、遠く離れていく。
俺は膝をついてぽたぽたと水色の絵の具を目から零した。
青い人形が俺に近寄ってくる。
俺はそっとそれを抱きしめた。


ど う し て 泣 く の ?


『分からない…どうしてなんだろうね』


寂 し い ? 


『寂しい…そうだね寂しいんだね。裏切っているのは自分の癖に笑えるね』


壁に文字が浮かび上がって、俺はそれと会話する。
俺は、メアリーは外に出てみたかった。
ただそれだけだった。


『引き込んだのが、ギャリーさんじゃなかったらよかったのに…っ』


ゲルテナ、お父さん、どうして俺とメアリーを描いたりしたの?
貴方の息子たちはこんな過ちを犯してしまった。


『メアリーを止めないと、あの子はただ友達が欲しくて、外に出たかっただけなんだ…っ』


俺は立ち上がりギャリーさんを追いかけた。
走って走って、家族(作品)たちに道を聞いて、回って。
望んだって手に入らないこと、望んでも触れることの出来ない存在。


『メアリー!!』


メアリーの絵が飾られている部屋に俺は飛び込んでパレットナイフをギャリーさんとイヴに向ける手を止めた。
俺の体に突き刺さるパレットナイフ。
痛みはない、当然だ、俺は絵なんだから。
メアリーは俺を刺したことでハッとして、よろめいて座り込んだ。


「お兄ちゃん…どうして?もう少しで私たち外に出られるところだったんだよ?」


『駄目だよメアリー、イヴとギャリーさんの世界であって俺たちの世界じゃないんだから』


「いやだよ!何で邪魔するの!?お兄ちゃんの馬鹿!甘いお菓子食べられるんだよ!?遊園地だっていけるし友達だって沢山作れて明るくて楽しい場所なのに…!!」


『メアリー、俺たちが馬鹿だったんだ…絵は絵の世界にいるしかないんだから』


ボロボロとメアリーの瞳から涙が零れ落ちていく。
俺はぐずるメアリーを抱きかかえた。


『イブ、ギャリーさん…案内します出口に』


「あんた…」


『信じられなかったらついてこなくて構いません』


するとイヴが俺の服裾を握りしめた。
心配そうに見上げる幼い瞳。
そんなイヴの様子を見てギャリーさんは笑った。


「いいえ、信じるわ」





『この中に飛び込めば元の世界に帰れます』


「やったわ…私たち帰れるのね!!」


ギャリーさんはイヴを抱き上げると絵の中に立たせた。
メアリーは拗ねてもう2人の顔を見たくないと言わんばかりに俺の肩に顔を埋めて泣いている。


「ねえ…」


『はい?』


「あんたの名前…結局なんだったか教えてもらってもいいかしら?」


優しく頬を撫でられる。
その瞬間、零れ落ちる絵具(涙)。


『空を、見上げる少年です…』


「―…そう、ありがとうね…でもそれじゃ色気がないわね」


『い、いろ…?』


「名前、でどうかしら?響きがとっても綺麗でしょ?あだ名みたいなものだと思ってちょうだい」


駄目かしら?と問いかけるギャリーさんに俺は慌てて首を横に振った。
プレゼントなんて初めてだ。
二度と隣には立てないだろう、もうこの二人に会うことはないだろう。
悲しい、寂しい、愛しい、離れたくない。


「ばいばい、メアリー」


「さよなら名前」


「「またね」」


絵の中に吸い込まれていった2人。
メアリーがギュッと俺の服裾を握りしめて喚き叫んだ。
ポカポカと俺を殴る。


「うあああああん!!何で邪魔したの!馬鹿!馬鹿ぁあああ!!」


『いてっ痛いよメアリー』


「もう少しだったのに!馬鹿馬鹿!お兄ちゃんの馬鹿ぁ!」


『仕方ないだろ?ギャリーさんにもイヴにも世界があるんだから』


そう言えばメアリーの手が止まった。


「イヴ…私に優しくしてくれたの」


『うん』


「友達になれたかなぁ…」


『なれたよ、きっと…さぁ、帰ろう俺たちの世界に。家族が待ってる』


俺が足を進めると赤い服の女や無個性、青い人形たちが迎え出てきてくれた。


(さよなら…ギャリーさん)


・・・


【兄妹】ーーーー年

「メアリー」が生涯最後と言われていたが最近になって見つけられた作品。
ゲルテナの古い作品の中の「空を見上げる少年」の少年と共に「メアリー」が描かれている。
また、2人とも実在しない人物だと言われてきたが二人の手紙らしきものが絵と共に発見された。
それと同時に少年の名前も明らかとなった。


×がつ○にち

きょうは おにいちゃんと ぼうけんをしました
はじめて ともだちが できました
また あえると うれしいです

追伸
ありがとう、愛しています

メアリー 名前


最初で最後の
友達(恋)

【空を見上げる少年】ーーーー年

雲1つない空を見上げている少年。
少年の目に映る美しい空色に誰もが引き込まれた。



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