僕には空を飛ぶための羽はないのだから
※病んでます
「僕、天使に会ったことがあるんです」
「―…は?」
僕の言葉に火神くんは食べていたバーガーを落とした。
ズルズルとバニラシェイクを啜る僕に「いやいや冗談はよせよ」と苦笑いする。
中学の時、青峰くんに言った時もこんなような反応だった気がする。
でも僕は確かに出会ったのだ。
白い羽をはためかせて美しく空を自由に舞う天使に。
確か小学生のときだった。
バスケットボールを公園の木が生えている場所に転がしてしまってそれを追いかけた。
ボールに追いついて拾い上げた先に、彼はいた。
真っ白な服に透明感のある肌、ミルクティー色の髪と緑色の瞳。
僕は目を奪われた、美しい青年だった。
『―…俺が見えるのか』
「あ、あなたは…?」
『…天使って人間は呼ぶ、お前は?』
「黒子です、黒子…テツヤ」
ふうん、とあまり興味なさそうに反応してから『そうだ』と楽しそうに言った。
『俺まだこの世界に来たばかりなんだ、人間のこと教えてくれよ』
「…人間のこと、ですか?」
うん、と無邪気に笑う天使に僕は色々なことを教えました。
子供でも知っている人間の常識を教えると本当に嬉しそうに笑うもんですから僕もいろいろと本を持ってきたものです。
しかし、成長するうちに僕は天使の姿が見えなくなってしまったんです。
大人になるにつれ見えなくなってしまう。
僕はこの時本当に怖かったんです。
「だから僕は彼に聞きました、どうやったらずっと一緒にいられるか―…」
「黒子、それ、マジの話なのか?」
「…冗談じゃないですよ、それで彼は言ったんです」
『何時かまた会えるよ』と悲しげに微笑んで。
そのままどんどん僕の目から見えなくなって、中学生になる前には完全に見えなくなってしまったんです。
「何時かって言うのはきっと…そういう事なんでしょうね」
「―…まぁ、そうだろうな」
人間には羽がない。
両手を広げて上下にいくら動かしても地上から足が浮くことは絶対にない。
だから飛行機を作ったんでしょう。
(僕はただ、もう一度君に会いたいだけ、なのに)
落ちてしまうのが怖かった。
でももう落ちてしまった。
飛ぶ羽を持たない僕はもう落ちるしかない。
君が迎えに来てくれるまで、この恋に落ちていくしか。
「…そうか」
「黒子?」
―…このとき、俺は黒子の変化に気付くべきだった。
空を見上げたまま動かなくなった黒子の肩を叩くと「なんでもありません」と笑って空を自由に飛ぶ鳥たちを見つめていた。
次の日の朝のニュースで、黒子が自殺したことを知った。
インタビューで俺は泣きながら言った。
「黒子は天使に会いに行ったんだ」と。
アナウンサーが俺を可笑しな目で見ていたと同時に友人を亡くしたことで壊れてしまったんじゃないかと同情の目を向けていた。
「…天使、か俺も一度だけテツから聞いたことがあるぜ」
「…」
「会えたのかもな、天使に」
(何で、死んじまったんだよ、黒子…っ!!お前はそれでいいのかよ…!!)
▽
少年は天使に恋をしてしまいました。
その少年は天使に会うために大きな罪を犯してしまいます。
自ら命を絶つことは禁忌。
神様からいただいた命を神様の判断なしに消してしまうなど、許されないのです。
そして少年は落ちていき、そしてそのまま、悪魔となってしまいましたとさ。
『…ばか』
「馬鹿とは何です、やっと貴方に会いに行くための羽だって手に入れたのに」
俺の目に映ったのはあの日の少年が成長し、黒い翼に角を生やした悪魔となった彼の姿だった。
『何時か死ぬってのに、何で悪魔になったんだよ』
「早く貴方に会いたくて、」
『…下らねえ』
見ろ、と俺が指さす人間界を黒子は見つめる。
『泣いているだろ、お前を思って』
「―…」
『俺なんか好きになって、バカだな本当に』
だって、と悪魔の涙があふれ落ちる。
「貴方の名前だって、知らないんです。ずっと一緒にいたくて、それで」
俺は悪魔の手をとった。
はっと俺を見つめる。
『一緒に堕ちよう、テツヤ』
口付けを交わすと同時に真っ白だった羽がまっ黒に染め上がる。
目を見開くテツヤ。
『悪魔との恋は禁忌、堕天するしかない』
「―…っ、ごめ、んなさい…っごめんなさい!!」
『いいよ、もう…後戻りはできないんだから』
落ちたらそのまま落ち続ける。
羽を上下に動かしたって、落ちる速度についていけるはずなんてないんだ。
一緒に堕ちよう、そしたらもう怖くないだろう?
―…俺が見えるのか
―…あ、あなたは…?
―…天使って人間は呼ぶ、お前は?
―…黒子です、黒子…テツヤ
あのときから俺は、ずっと…。
『好きだよテツヤ、迎えに来てくれてありがとう』
「…っ、僕も、あの日、会いに来てくれて…」
ありがとう、
・・・
地味な主人公設定
熟年16歳
交通事故で死亡
バスケ好きで天使としてはまだまだ幼い方