右目に咲く花

名前の病は身体に花が咲く病。
最初は蕾で、体の養分をどんどん花が吸い上げると花が咲く。
そして完全に開花するとー、永遠の眠りにつくことになるでしょう。


「…何それ、本気で言ってんの?」


『俺も冗談だと思ったけど、マジみたいなんだ』


「馬鹿にすんなし!名前ちんの馬鹿!入院なんて意味わかんねー!」


そう言って紫原はバタバタと病室から出て行ってしまった。
意味わかんないのはこっちのセリフだよ。
右目が痛むから眼科に行ってみれば大きな病院に行くように言われた。
そして何故か先生が青ざめた顔になって電話するといろんな先生が俺を取り囲んで頭が付いていかないまま、入院となってしまった。
そして恋人であり、チームメイトである紫原にメールをする。
すると光のごとくやってきた。
先生から聞かされた内容をそのまま伝えた結果―…あんな反応したのだが。

点滴で栄養剤をうたれているだけでこの奇病を治す方法は見つかっていない。
このまま俺は花が本当に咲くのか、花の色は何色なのか想像しながら死を待つしかないようだ。


『…痛っ』


目がツキンと痛む。
目にゴミが入ったかのような感覚。
毎日検査ばかりしていて最近身体を動かしていない。
こんな生活じゃ逆に体調を崩してしまいそうだ。


「…名前ちん」


『紫原』


ひょっと、申し訳なさそうな表情で病室に顔をのぞかせる恋人。
「昨日はごめんね」と紫原がお気に入りのお菓子を俺に渡す。


「…目」


『うん?』


「目に、葉っぱが見える」


『え…?』


本物なの?と俺に触れる大きな手。
触れたのか、びりっと痛みが走って『痛い』と言えば紫原の手は俺から離れてナースコールを押していた。
バタバタと大人数が病室に流れるように入ってくる。
そして俺の目を見るや否や精密検査を行わせた。


「これが貴方のレントゲン写真です」


『な、んだ、これ…』


俺の体内には植物の根がまとわりついていて俺は思わず手を口にやった。
一緒に話を聞いてくれた紫原が俺の手を握りしめる。
大きな手が俺を包むのに、俺の手はカタカタと震える。

ああ、これは現実なんだ。
そう思うと絶望しか来なかった。


(生きていたい…っ)


そう願ったところで、俺の右目からは葉っぱが一枚、また一枚と増えていく。
そして蕾になって少し花が開くまで時間はかからなかった。


・・・


『何色の花が咲くかな?』


「…わかんねー」


名前ちんは最近、病室の花瓶を狂ったように割った。
そしてカーテンを閉めて外の景色が見えないようにした。
花なんか、見たくないって叫んで喚いて暴れて…俺が必死に抑えた。
名前ちんが入院して数週間。
ちょっとしか見えなかった葉っぱが一枚ずつ増えて行って蕾ができるまで時間はあまりかからなかったと思う。
そして今は、少しだけ花びらが見える。
名前ちんの右目に花。
色んなテレビ記者が来た、世界中のメディアが取り上げて。
世界中から研究者や医者や野次馬がやってきた。
俺はそれが嫌で病室を完全に封鎖してしまった。


「…名前ちん、細くなったね」


『養分吸い上げてるらしいからな、仕方ないよ』


「どうして名前ちんなんだろうね」


『えらばれちゃったんだから仕方ないよ。でも』


ポロリと涙を流す代わりに葉っぱが名前ちんから舞い落ちる。


『紫原じゃなくてよかった』


「―…」


外からドンドンと記者たちが病室のドアを叩いているのが聞こえた。
煩いなぁ、うるせーなぁ、捻り潰しちゃおうかなぁ。
ハラハラと舞い落ちる葉っぱ(涙)を俺は拾い上げる。


「名前くん!ちょっとでいいから顔見せてくれないかなー!」
「今どれくらい花が咲いてるの?」
「一瞬でいいんだ!!」


『…紫原、学校の時間じゃないのか?』


「いい、一緒にいる」


『…赤司に怒られるぞ』


「許してくれた」


それだけ言うと名前ちんは俺の頭を撫でた。
病院の人が記者たちに怒鳴りつける声が聞こえた。
「静かにしてください」「ここは病院です」「他の患者さんだっているんです」「人の辛い顔を写真に収めるのが貴方たちの仕事なんですか」と。
でも記者もひかない。


『俺が眠ったら、きっともっと騒ぐんだろうな』


「…名前ちん」


『紫原のもとに帰ってこれると良いな』


きっとこれは世界中の研究のために身体を解剖されて遺体が戻ってこないかもしれないことを言っているんだろうな。
どうして静かに過ごさせてくれないんだろう。
ねえ、ならさ。
今外で騒いでいる奴らの大切な奴が死にそうなとき、死んだとき「どんな心境ですか」って写真とりながらマイク向けてもいい?


「…名前ちん、好きだよ、大好きだよ」


『紫原…』


赤ちんへのコール。
とぅるるるるっと無機質な音が部屋に響く。
俺の身体に寄り添って眠った名前ちんの手を握りしめながら俺は叫んだ。


「赤ちん、助けて赤ちん、外の奴等を消してよ赤ちん!!」


―…すると、ぷつん、と電話が切れて。
―…そしてドアの外が静かになった。


「…紫原?」


「赤ちん…っ」


ガラッとドアを開けるとさっきまで人で溢れていた筈の廊下には赤ちん1人しか立っていなかった。
真っ赤な両目が俺を心配そうに見つめていた。


「…大丈夫か?」


「赤ちん、どうしよう、もう花が咲きそうなの、名前ちんが死んじゃうよぉ」


「…」


「赤ちん、助けて、名前ちん、死んじゃうの?」


涙を流しながら問う。
俺は泣けるのに名前ちんは泣けない。
名前ちんが泣くと葉っぱが目からヒラヒラ舞い落ちる。


「ごめんね、俺でも病気は治せないよ」


「あか、赤ちんなのに?」


「そう、俺でも無理なんだ」


「…じゃあ、もう花は咲くしかないの?」


「だからもう、花は咲くんだ。だから紫原一緒にいてあげてくれ」


いいね、と俺に聞く。
頷けば赤ちんはベッドに眠る名前ちんを見て言った。
「綺麗だね」って。
小さく笑って赤ちんの目から透明な雫が零れ落ちた。






次の日の朝。
目を覚ますと名前ちんの右目の花が完全に開花していた。
お昼になっても夕方になっても名前ちんが目を覚ますことはなかった。
看護師さんや医師が病室を開けるように俺を促す。
でも俺は開けることなく閉じこもった。
そして叫んだ。

「連れて行っちゃうんでしょ」って。
身体を解剖して検査して隅の隅まで見まくってしまうんでしょって。


「世界のためとかそんな為に好きな人の体をバラバラにされるなんてヤダ!!」


俺は大声で泣きわめいた。
ザワザワと病室の外がうるさくなって、また静かになった。


「…紫原くん」


「黒、ちん?」


「もう、可哀想ですよ、眠らせてあげましょう」


黒ちんの声は震えていた。


「赤司くんが交渉してくれました、レントゲンとかそういう簡単な検査だけしたら普通に葬儀を行えるように」


そんな言葉に俺はやっと、ようやく病室のドアを開けた。
ブワッと掠める花の香りに「良い香りですね」と黒ちんは言った。


「咲かないでと思っていた筈の花なのに、皮肉ですね」


「…え?」


「こんなに綺麗な花を咲かすだなんて」


名前ちんの右目に咲いた紫色の花を見て俺は「そうだね」と花に唇を押し付けた。


「―…おやすみなさい、紫藤(しどう)くん」


名もない花

かきたかった部分だけ書いたのでボロボロです
すみません
奇病ったーから出てきた内容をねつ造しました



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