呆れるほど、鮮やかに

※黒子苛め描写あり

俺、藍場(あいば)名前と桃井さつきと青峰大輝は幼馴染です。
大輝がバスケを好きになったから俺も好きになりました。
大輝はすぐ上達して、俺もその後を追うように上手くなっていきました。
でも、その差はどんどん開いていって大輝は新しいパートナーを作りました。
黒子テツヤ。
大輝を光と称し、自分を影と言いました。
俺じゃ足りなかったのかな、俺じゃ無理だったのかな。
大輝の隣は俺だと思っていたのは自惚れだったのかな。
その後、大輝の才能は開花して大輝は俺に試合を任せるようになりました。
プレースタイルが同じ俺を大輝がやる気のでない試合の時出しました。
キセキの世代のような天才ではありませんでしたが、大輝とほぼ同格の速さを持つ俺は秀才でした。
黄瀬が言うには「青峰っちのプレースタイルはコピーできないが藍場のならできる」だそうです。
何が違うかなんて一目瞭然です。
大輝より遅い、弱い、鈍い。
所詮は秀才どまり。
天才になれるはずもありません。

そして世の中の人はこう俺を呼びました。
「青峰大輝の代用品」と。
流石のチームメイトもこの呼び方はないと言いましたが俺は嬉しかったです。
やっと大輝の役に立てたんだ―…と。


『それなのにどうしてお前は他の光を見つけてヘラヘラしてんだよ!!』


自分より遥かに華奢な黒子の胸倉を掴んで持ち上げて叫んだ。
ざわつく誠凛の体育館。
そりゃそうだ。
いきなり他校生徒が体育館に乗り込んできたかと思えば黒子にケンカふっかけているんだから。


「ちょ…なんだ!?」
「誰か先生を呼んで!!」


「呼ばないでください!お願いです、カントク」


「な…どうして?」


黒子の制止の声で固まる誠凛。


『…呼ばないのか?お前、自分の状況を分かって言ってんの?』


「…はい、分かっていますお久しぶりですね、藍場くん」


黒子の目は怯えておらず、俺を真っ直ぐと見つめている。
そんな俺たちを心配そうに見つめているチームメイトたち。


「その制服…桃井さんや青峰くんと同じ桐皇に進んだんですね」


『そんなのはどうでもいい。どうしてお前は大輝から離れたりしたんだ!』


胸倉をつかんで持ち上げている手が少し辛くなってきたが睨み続ける。
黒子も少し苦しそうにしている。


「僕は、キセキの世代を倒します。君たちは間違っているから!」


『大輝は間違ってなんてない!アイツの絶望を見てそんなことよく言えるな!!』


競う相手がやる気をなくしただなんて、悲しい。
辛い、助けてほしい。
大輝はそう俺に言ったんだ。
俺には分かるよ、大輝の辛さが分かるよ。
そしてお前だって傍にいたなら、大輝の影と言ったなら支えてあげるべきだった。
俺じゃなくパートナーのお前が!!


『火神とかいう新しい光ができたなら、大輝のことはもう要らないってことだろ?』


「は…?」


『ならくれよ、俺に返してくれよ。大輝のこと俺に返せよ!!』


「火神くんや青峰くんは物じゃありません!そんな言い方やめてください!」


『ふざけんな!!』


俺は床に黒子をたたきつけた。
その瞬間、黒子のチームメイトが黒子の傍に駆け寄ってくる。


『は…っ被害者面もいいところだな黒子。お前の意見が全部正しいと思ってんのか?みんなで勝たなきゃ勝利なんて意味がない?笑わせんなよ』


勝たなきゃ何の意味もない。
そういう世の中だろうが。
いいや、そうじゃないか。


『お前が中学時代、潰してきた学校の奴らにそれが言えるのか?』


「…!!」


『お前らは!俺たちは!勝って他の奴らの夢をぶっ潰してきたんだろうが!勝ちたいって夢も希望もぶっ壊して、その壊した本人が「勝ったとき嬉しくないと嫌だ」とか言うのか!?我が儘もいいところだ!』


「そ、そんな僕は、そういう意味で言ったんじゃ…」


『じゃあどういう意味だよ?…今までボールを与えてくれた仲間に失礼なんだよ。1人じゃ何もできないクズが』


黒子はカタカタと震えて床に尻を付けたまま俯いて動かなくなってしまった。
火神がそんな黒子を見て俺を睨んだ。


「さっきから黙っていれば好き放題言いやがって…!大体テメェ誰なんだよ」


『…桐皇学園1年藍場名前。君が最近1on1で負けた青峰大輝の…影だよ』


「青峰の…影?」


俺は自分を言う時に「代用品」という言葉を使わない。
そんな言い方をしたら大輝が悪者みたいだからだ。
だからと言ってパートナーでもない。
俺と大輝が同じコートに立つことはない。
入れ替わるだけ、それだけ。
大輝がそう望むなら俺も望む。


『次の試合、大輝の前座として遊んでやるよ。そんな光がいなきゃ何もできやしない影と違って俺は強いぜ?』




そのころ、桐皇では誠凛戦に向けて話し合っていた。


「藍場?」


「何や、聞いたことなかったか。若松」


青峰と一緒に入部した藍色の髪と瞳をもった藍場名前。
身長は182pでポジションは青峰と同じパワーフォワード。
帝光時代は青峰がサボったりやる気をなくした試合の途中、青峰の代わりとして出場していたらしい。
青峰の代わりになる存在は中々いない。


「青峰は最強や、けれどお前もよく知ってるように性格に難がある」


だから桃井のような存在と藍場の存在が傍にいる。


「俺はこう思ってる、火神の影が黒子なら、青峰の影は藍場や」


試合時、直接助けることはない。
メンタル面での支えである、と今吉は笑った。


「もしかして、青峰と同じポジションなのに藍場に推薦を出したのは…!」


「そう、青峰のための保険、もっと悪い言い方すれば"代用品"やな」


クックックと笑う今吉。
桃井はここにはいない自分の幼馴染2人を思って目を閉じた。
昔の様に笑ってバスケする2人が見たいと、願うばかりで自分は無力だと―…。


「っ、はぁっはぁっ、ふざけてやがる…!」


そして桐皇戦、青峰は遅刻してきた。
言ったとおり藍場が青峰の代わりとして出てきた。
何が青峰の影だ。
サポートもなにもいらないレベルじゃねぇか…!


「おい、黒子!どこが影なんだよ!」


「いいえ、紛れもなく今藍場くんは影としての役割を果たしています」


青峰大輝のプレースタイルに補助はいらない。
個人的なプレースタイルの彼を支えるとしたら彼がいない試合に出てあげること。


「そんなのってよ…!」


「はい。みんなは彼をこう呼びます」


青峰大輝の代用品。
光と影が同士にコートに立つことはない。
ボールを交わすことも拳を交わすこともない。


「そんなのでアイツは満足してるのかよ!無理やり青峰と同じプレースタイルなんかにしたら身体が…!」


「壊れるでしょうね。人には合ったプレースタイルがあります。彼もかつては自分独自のスタイルがありました。でももう、彼は青峰くんの代用品になることを決めてしまった」


ー…俺はだから藍場を尊敬出来ずにいた
彼は自分を秀才止まりと言うが彼は青峰っちのプレースタイルができる時点で天才なのだ。
扉を開くことができるというのに自ら扉をしめた。
だからもう俺が彼を藍場っちと呼ぶことはない。
一度だけ、青峰っちが、開花する前に一度だけ見たことがあるプレースタイル。
光って見えた。
だけど青峰っちが練習をサボるようになってからは青峰っちのプレースタイルになった。
違うだろ、あんたが一番得意とするプレースタイルはそれじゃないだろ。
そんな動き俺だってコピーできるっすよ。
ねえ、影が光に慣れないように光が影になることもできないんすよ?


「今日は出ないんすか?試合」


俺の海常と桐皇の試合。
青峰っちはすでに来ていて藍場はベンチに座ってる。
俺はウォーミングアップ中に声をかけた。
選手が他校の選手に試合前、声をかけるなんて結構失礼なことだと思う。
だけど声をかけたかった。


『大輝がそう、言ったからな』


「なにそれ、何時まで青峰っちの代用品としているつもりなんすか?せっかく扉を開く力もあるのに!」


『…』


「テメェには関係ないだろ、黄瀬ぇ」


藍場っちの肩を抱き寄せる腕。
青峰っちが来た瞬間、目に光が宿る。


「俺のもんにお前が口出すんじゃねぇよ」


「青峰っち…何にも分かってないっすね」


桃っちが心配しているのも。
俺がずっと憧れて何時かまた、1on1してほしいと願っているのも。
黒子っちがあの時の青峰っちに戻ってほしいと願っているのも。
今あんたの隣にいる藍場がどれだけ辛いかも。


『勝ってから言えよ黄瀬』


ー…涼太!まーた大輝に負けたのか?
ー…藍場っちー!悔しいっす!何であんな強いんすか!?
ー…俺が見てやるよ大丈夫、大輝も涼太のこと認めてるよ


あの笑顔はもう、ないんすね。
青峰っちの笑顔が消えた瞬間、藍場の笑顔も消えてしまった。
憧れを切り捨てても勝てなかった試合。
何時まであの2人の心はモノクロのままなんだろう。
俺じゃだめなら誰が?


「黒子っち…」


危機的状況だった。
WCでの初戦。
誠凛に追い詰められた。
カントクとさつきは俺を最後の最後でコートに出すことを薦めた。
俺はこの試合、まるっきり出ていなかったから体力も有り余っている。
確かに大輝と同じプレースタイルだとしても疲れている先輩たちの代わりに出るべきかもしれない。
だけど、大輝は俺の腕を掴んだ。


「…名前、お前は出るな」


「あ、青峰くん?」


「今楽しいんだよ、邪魔するはずないよな?」


大輝が笑ってる。
楽しそうにバスケをしている。


『…ああ、分かったよ』


「んな!?ふざけんな藍場!青峰!今の状況分かってんのか!?」


大輝は俺の返事に一瞬顔をしかめると俺の耳元に口を寄せた。


「―…悪いな」


『―…だ、』


コートに向かって行った大きな背中。
その後、俺たちは敗れて黒子と大輝が拳を合わせた瞬間。
涙が零れ落ちた。
負けたことにではない。
これは嫉妬だ。
黒子と大輝の間に入り込むことなんてできやしない。
影になれるはずもなかったんだ。


「名前ちゃん…」


『ごめん、さつき、俺先に戻ってるよ』


「待って!名前ちゃ…」


さつきの制止の言葉も聞かずに俺は控室に戻るとバタバタと荷物を突っ込んで会場を出た。
心の中は嫉妬で狂ってしまいそうだった。
好きなんだ、ずっと好きだった。
大輝が始めたからバスケを始めた。
大輝が好きだから俺もバスケを好きになった。
さつきがいて、大輝がいて、俺がいる。


「おい、1人で帰るのかよ」


『だ、大輝…』


「ひでーツラ、…俺がそういう顔にさせちまったんだけどな」


先回りしていたのかジャージ姿の大輝が俺を会場の出口で立っていた。
相変わらず帰るのは早いようだ。
俺の目元をグイグイと乱暴に拭うと「ごめんな」と謝ってきた。


「さつきにも後で謝んねーとな、ずっとお前らは傍にいてくれたのによ」


『…それでも、お前をまた笑顔にさせたのは黒子だろ』


「…」


ギュッと肩にかけたバッグを握りしめた。
あふれ出したままの涙。
止まる気配はない。


『俺は黒子が、嫌いだった、ずっと嫉妬してた、ずっとずっと消えちゃえばいいって思ってた…!』


小さい頃からずっと三人で歩いてきたじゃないか。
そんな俺たちの間にいきなり入ってこないで。


「…だからいきなり俺のプレースタイルにしたのか」


『だって、じゃないと大輝がどんどん離れていきそうだったから…!』


「馬鹿か、光が影になれるわけないだろ」


『うう、だって…だって、俺、大輝が好きなんだもん、仕方ないだろ、お前のパートナーに俺だってなりたかったんだもん!』


「ば…!?何いきなり大声で言ってんだよ!?」


ああもう!と大輝は俺の腕を引いて人気のない場所に連れて行った。
涙やら鼻水やらで汚い俺の顔を大雑把に自分のジャージの裾で拭う。


『気持ち悪いだろ?物心つくときからずっと好きだったとか』


「気持ち悪いと、俺も自分の気持ちに思ってた」


『は…?』


「ずっと傍にいてくれたのに、気付いてやれなくてごめんな」


だからもうテツに嫉妬するな、お前に向ける感情とテツに向ける感情の名前は全く違うんだから。
そう言って俺を抱きしめた。
ああ、俺が大輝の目に映ってる。
俺は大輝の影なんかになれるはずなかったんだ。


「…もう代用品なんかやめてくれよ、」


ずっと言えなかった。
俺の代用品なんか言ってほしくなかった。
お前と俺は全くの別人だろ?
でも言えなかった、怖くて言えなかった。
俺を支えるために必死に考えた結果が代用品という道だったならその道を壊してしまったら。
一体、どうなってしまうのだろうと思っていた。
そう大輝は自分の気持ちを教えてくれた。


「早く、お前と一緒にコートに立ちたい」


『大輝…』


「お前がいればモールフォワードも安泰するだろ」


『…それ、先輩に失礼だよ』


俺の本当のポジションはスモールフォワード。
大輝と同じプレースタイルにしてからはパワーフォワードに変えてしまったが。


「あ!大ちゃん名前ちゃん!ここにいた!!」


さつきが笑顔で俺たちに抱き着いた。
そういえば、久しぶりに三人で顔を合わせた気がする。


「おら!さっさと行くぞ!」


『―…うん』


抱きしめて、空を見上げた
火神視点

「おい…藍場の奴、先に出て行っちまったぞ」

「…大丈夫です、青峰くんがいますから…それに桃井さんも」

「アイツらの関係って何か特別って感じだな」

「まぁ三人とも幼馴染ですからね」

「そうだったのか」

この後、俺たちは荷物を纏めて会場を出ると泣きじゃくる藍場と、そんな藍場を慰める青峰が見えた。
あんな二人の表情は初めて見た。
叫び声が聞こえた。
アイツが体育館で何で黒子にあんな行動をしたのかすべて理解できた。

―…数日後。
試合に来た俺たちに藍場が謝りに来た。


『迷惑かけてごめんなさい、気持ちが高ぶってしまって…テツヤも、ごめんね』


「いいんですよ」


まるで別人のようだった。
黒子は藍場をなだめるように笑う。


『俺、もう大輝の代用品はやめて昔のプレースタイルに戻すよ。大輝に言われたんだ。光はどんなに頑張っても影にはなれないって』


「…その通りです君は影になる様な存在じゃない、君は光になる存在です」


『…出遅れちゃったけど俺も天才のドアを開けれるよう頑張ってみるよ。ひどいこと言ってごめんねテツヤの気持ちも考えないで』


「いいんですよ、そのことはもう」


黒子から聞いたがこいつはキセキの世代と同格らしい。
しかし青峰のプレースタイルに変えてしまったことによってうまく開花することができなかった。
それにしてもキセキの世代にしては何だか普通だよな…。
感情が高ぶったりして間違ったりとかして普通の高校生って感じだ。
個性的な奴が多いと思ったのに。
そう考えているとふっと目が合った。


『でも俺、君は嫌いだな。大輝の方が絶対強いし』


「んな!」


『次は俺の本当のスタイルで負かしてやるよ、ま、せいぜい頑張ってね火神』


にこっと笑った藍場はどこか吹っ切れたような顔をして遠くにいた青峰と桃井に駆け寄って行った。



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