病み双子シリーズB

※死ネタ表現あり

僕は名前。
涼太は涼太。
みんなが見るのは涼太。
だから僕はみんなの目からじゃ涼太に見える。
だから僕は涼太で涼太は涼太が一番正しいんじゃないかな。
だから涼太は二人もいらないんだね。


「あ、名前…くんっ」


突然、僕の名前を知らない女の子が声をかけてきた。
僕は自分のことを間違えない人に驚き、思わず振り返る。


『あ、あの…誰、ですか?』


「え…っ、忘れたの?酷い…っ噂にされたくないからってそんな言い方…!」


『??、もしかして涼太に用事なの?』


ワナワナと震える彼女。
しかしいきなりブツブツと呟き始め、僕は不気味に思う。


「もしかしたら、そう、そうよ…優しい名前くんがそんなこと…なら、やっぱり」


『…ぼ、僕もう行くね?』


「ま、待って。黄瀬、黄瀬涼太くんから最近アドレスとか電話番号とか聞いた?」


そんなの聞いたことはない。
僕のアドレス帳は限られているし、家族以外のアドレス以外は本当に少ないのだ。


『…聞いてない、けど』


「…っ!!」


女の子は豹変したかのような顔になって走っていく。
一体何なのだろうか。
涼太のファンかな?大変だな。





『よし、特売品ゲット』


ガサっと買い物袋を持ってスーパーから出ると人が集まっていた。
何があったのか、警察までいる。
ということは事件か何かだろうか、野次馬に紛れてヒョイっと顔をのぞかせる。


「え…!?」
「お、同じ顔…!?」


僕の顔を見た野次馬と警察がザワつく。


『??』


僕は状況がつかめず、もう家に帰ったほうが良いかもしれないと野次馬から抜け出そうとすると警察の人に腕を捕まえた。


「すみませんがご家族の方ですか!?」


『ご…ご家族…?』


警察の人がブルーシートで周りを覆っていく。
ということは死傷者がいるという事なのか。
僕の頭の中はパニックだ。


「あ…あああ!!名前くん!名前くんでしょぉ!?見て、もう私とあなたを邪魔する人はいなくなったから!」


「こら!暴れるな!!」


警察に取り押さえられている女の子があ僕を見るなり叫ぶ。
被害者を乗せた救急車が走り去っていく。


「名前、とは貴方の名前で間違いないですか?」


『…僕と、』


「?」


『僕と同じ顔の子が、今救急車に運ばれたんですか!?』


警察はパニックになった僕の身体を支え、頷いた。
僕は買い物袋をバサリと落とした。
コロコロと赤いリンゴが転がっていく。


『びょ、病院に、お願いします、僕は兄弟なんです!!』


僕が叫ぶと警察はパトカーに乗せると救急車の後ろを追いかけてくれた。
何度か名前や被害者の名前を問われたが僕はただ、ブツブツと言葉になってない言葉を呟いていた。
指先が冷たい、涼太は無事だろうか。
あの女は今日僕に声をかけてきた…。
涼太、涼太、僕の大切な兄弟。


「出血多量で…残念ながらもう病院に着いたときには…」


『―…、っ、そ、そんな、』


「ご家族に連絡お願いできますか?それとお名前の方を、」


『あ、会わせてください、お願いします。二人きりにさせてください。ちゃんと話しますから一度、一度』


「…分かりました」


どうぞ、と僕は部屋に案内された。
霊安室に置かれた涼太、僕の兄弟、同じ顔、同じ声。
本当に世の中に1つだけになってしまった。


『ごめんね、守れなくてごめんね涼太…りょう…―…りょう…?』


あれ、違う。
眠っているのは涼太じゃない。

だってこの世界に必要とされているには黄瀬名前じゃない。
だってキラキラ光ってモデルをこなして完璧な涼太だ。
だってそうでしょう?
僕のことを涼太と間違える癖に、涼太のことを誰も僕と間違えたりしないんだから。


『…兄弟、』


どうして僕たちは双子なんだろう。
どうして1つじゃないんだろう。
君のことが分かりたいんだ、君のことを理解したいんだ。
君の見る世界が見たい、君の立つ場所に立ちたい。
でも、君がいなくちゃいけなかった。
1人じゃ未完成だけど2人なら完成できるものもあるでしょう?
その完成させる喜びは、君と2人、分かち合えるでしょう?

でも、1人じゃできないよ。
独りじゃ完成させたところで誰とも分かち合えないよ。


『…』


「あの…よろしいですか?お名前の確認をそろそろ…」


学生証を持ち歩かないうえに携帯にロックをかけているから確認が取れなかったらしい。
警察が申し訳なさそうに声をかけてくる。


『…黄瀬、黄瀬』


「?」


『俺の名前は、黄瀬涼太です』


僕、黄瀬名前はこの日、死んだ。
黄瀬涼太は片割れの双子の兄、黄瀬名前を失っても生き続ける。
これが壊れた僕(涼太)が考えたシナリオであった。

ニュースでも新聞でも黄瀬名前の死が伝えられた。
家族も疑わなかった。
僕が死んだと疑わなかった。
だって僕が、いや俺が完璧な涼太だから。


「ああ、名前くん、会いに来てくれたのね?私の名前、教えてなかったよね!私、私はね…!!」


『俺は、涼太っすよ』


「―…え?」


『あんたが刺したのは黄瀬名前、俺じゃない』


「う、嘘よ…だって部活が終わった後を追いかけたんだもの!間違えるはずないじゃない!」


叫ぶ女を無視して俺は警察から出てきた。
明日、何事もなかったように涼太は学校に向かう。
そしてそのまま生き続ければいい。




「…分からないな、僕には分からないよ」


『もー赤司っちらしくないっすよ!』


「違う、君はそうやって僕を呼ばないだろう?名前」


駄目だ、分かっているのに。
僕の目の前にいるのが名前だと分かっているのに、亡くなったのは涼太だと分かっているのに。
世界に嘘を吐いたって僕には分かるのに。
どうして、仕草も雰囲気も声のメリハリも、涼太そのもので。


『違う、俺が涼太っすよ』


「コピー…」


全部、全部完璧にトレスしている。
双子だからなのか、分からないが黄瀬兄弟のスペックはほぼ一緒のようだ。
その容姿も運動神経も全部。


「やめてくれ、僕は、僕は死を受け入れたくないとかそういう意味で言いたいんじゃない。僕は名前、君のことが、」


「赤司っち?」


「―…」


「赤司っち、ありがとね名前のこと、そんなに思っていてくれて」


ああ、君たちはせっかく双子に生まれたというのに。
分かち合う感情すら失って、1つになってしまったのか。
1つに、1人になってしまうのか。


「赤司っち…?」


「僕のことを、最後に、最期に呼んでくれないか?」


「―…」


「君の声で、最期に」


君の死を受け入れよう。
死んだのは君で、涼太じゃない。
涼太はここにいる、そして僕たちとまた一緒にバスケをする。
変わらない、日常を送る。


『赤司、くん』


さようなら、

君は。僕は、俺は。
シリーズ完結

ちょっとした解説

名前は赤司が好きでした
理由は勿論、自分を黄瀬と間違えたりしないから

なので黄瀬が殺されることがなかったら黄瀬が失恋し、赤司と名前が付き合っていたかもしれません
しかし兄弟の死に、恋愛より強い家族愛で崩壊、となります
『』が途中「」になったのは赤司の認識が名前ではなく涼太になったからです



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