僕の小さな声が届きますように

「邪魔なんだけどー・・・」


そんなことを言われても僕は彼を追いかけた。
彼は面倒くさそうな顔で僕を横目で見て溜息ついて歩き出した。
彼の名前は知らないけれど紫色の髪が印象的で他の人よりも大きな体が好きだった。
僕が歩くとみんなクスクス笑う。
そんなことにはもう慣れっこだから気にしないで紫の人を追いかける。
彼の一歩は大きくて僕の一歩はとても小さい。
だから頑張って追いかけなくちゃ追いつかないし見失ってしまう。
人より小さな僕は大きな彼に憧れた・・・いや違う。
彼は覚えていないかもしれないけれど僕は助けてもらったのだ。
この誰にも見向きもされないような小さな体を大きな体で守ってくれた。
お礼がしたくて追いかけるけど鬱陶しそうに睨まれて最終的に無視されて追いかける。
毎日これの繰り返しで学校の人たちは大きな彼と僕を見て笑う。
きっと彼も僕と一緒に笑われるのが嫌なんだろうな。
でもどうしてもお礼が言いたくて。

授業が終わったらまた声をかけるタイミングを見図ろうとした。
さすがに授業を邪魔してはならない。
先生に見つかっても彼にさらに迷惑をかけていしまうだけだし僕も怒られるのは嫌だ。
授業が終わってもクラスは入りにくかった。
知らない人が沢山いるし紫の彼の席はドアより遠い。

(やっぱり帰り道かな・・・)


僕は髪を撫でながら考える。
早くお礼が言いたいと思って何日も追いかけてるのに紫の人は僕を見下げて鬱陶しそうにするだけ。

ー・・・助けてもらったのは一週間ほど前。
僕は小さな体だから苛められていた。
石を投げられたり蹴飛ばされたりした。
一生懸命逃げようとしたけど囲まれて逃げ道がなくされてまた蹴られた。
僕を苛めた奴らは僕が泣こうとも傷つこうともケラケラ笑うだけ。
道を通る人は関わらないようにするだけ。
僕は悔しくて無力な自分を泣いた。
そんなとき、

「そんなちまっこいの苛めて暇なわけー?」


「はあ!?なんだよ・・・っでか!!!」


彼の大きさに驚いた奴らは逃げていった。
彼は「あららー」とつまらなそうにお菓子を食べて僕を見た。
そしてゴソゴソ鞄をあさってお菓子を取り出して「食べるー?」と僕に差し出すけど食べれない僕を見て「まあ無理かー」と気怠そうに歩いていく。
僕は慌てて飛び起きて追いかけた。


『あ、あの・・・あの・・・っ』


でも僕の小さな震える声は届かなくて紫の人は去って行ってしまった。
そして僕のいる学校に彼が登校してきた姿を見て驚いた。
でもやっぱり、僕の声は届かないのかな・・・。


部活が終わるまで少し暇でうたた寝していると体育館から出てきた彼。
僕は飛び起きて追いかけた。
すると他の子が僕を見て「おっ」と言った。


「紫原ーまた追いかけられんぞ」


「はあーまた?こいつ小さくて邪魔なんだよね」


「紫原君、そんな言い方酷いですよ」


部活の友達かな、わからないけど僕を見下ろしてくる。
こんなに人が多くちゃゆっくりお礼も言えやしない。
僕がだんまりしているとみんな歩き出したから後ろを追いかける。
紫の彼以外はたまに振り向いてくるけど紫の彼はただただお菓子を食べるだけで僕を見てくれやしなかった。
暫く歩くと、別々の道に歩き出したので迷わず紫の彼を追いかける。
そういえばさっき青い人と水色の人が紫の彼を「紫原」って呼んでた。
きっとそれが彼の名前なんだろうな。
そして歩いてると見えてくる紫原くんに助けられた公園。(いやどちらかと言えば広場と言ったほうが正しいかもしれない)
そうだ、ここでお礼を言ってみよう。
そしたらドラマチックかもしれない。
僕は勇気を振り絞って深呼吸した。


『あ・・・あの、』


その時、紫原くんが真っ赤に染まった。


『え・・・?』


紫原くんの後頭部からダラダラ血が流れている。
見れば僕を苛めていた奴らが金属バットを持ってニヤニヤしてる。
紫原くんに仕返しをしに来たんだ、僕が助けられたから、僕のせいだ。
紫原くんは倒れて気絶してしまった。
それを見て慌てたのかあいつらは逃げ出した。
僕は慌てて近寄る。
涙がこぼれて止まらない。


(誰か、誰か・・・!)


振り向いたけれど人通りの少ないこの場所。
僕は走り出した。
大通りに出て叫んだけどみんな忙しそうに歩き去っていく。
小さな僕の体と声じゃ届かないのかな。
でも、紫原くんはこのままじゃ死んじゃうかもしれない。
僕は慌てて道を引き返して公園に戻った。


『あ・・・れ・・・?』


でも、そこにはもう、誰もいなかった。





僕は紫原くんを探し回った。
そして朝になると僕は学校に向かう。
すると見えた紫色。
頭には包帯が巻かれてる。
軽い脳震盪と出血で済んだらしい。
あのあと通りかかった人が救急車を呼んでくれたとか。


僕の無力な声。
僕は一目を気にしないで紫原くんに叫んだ。


『ごめんなさい、僕がもっと大きな声を出せたらよかったのに、僕が大きかったらよかったのに、でも、ありがとう、ありがとう紫原くん!!』


みんなが僕を一斉に見た。
でもそんなこと気にしてられなかった。
もうすべてをぶちまけるのは今しかないと思ったから。

紫原くんは振り向いてあきれたように言った。


「にゃーにゃーにゃーにゃー、うるさいんだけど・・・」


そして僕の頭をなでて笑った。
抱っこしてくれてうれしかった。


「小さくて傍にいられると蹴っちゃうからここにいてよね」


僕が大きかったらな、僕が人間の言葉を話せたらよかったのにな。
そしたら『ごめんなさい』も『ありがとう』も紫原くんに言えたのにな。
僕が人間だったらよかったのにな。
そしたら『好き』って言えたのにな。
零れていく涙は人間に見えなくても。
僕だって人間に恋くらいするのにな。


『かみさま、僕はどうして人間じゃないの・・・?』


そんなことを言ったって口から出るのは『にゃあ』だけなんだけれど。

誰にも知られない小さな恋
ありがちですが実は猫でした話を書いてみたかったので
擬人化とかはたぶんしないです



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