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※白澤夢の続き アニメ派の方はネタバレあります


『丁?』


私をそう呼ぶのは、もういないはずなのに。
地獄でいつも通り業務をしていたとき彼に再会した。
何百年ぶりに会ったんだろうか、私が人間だったころ出会った人間。
私が死んだあと、彼の行く先は知らなかったが何時か獄卒で働いていれば出会えると思っていた。
けれどあの村人たちが地獄に何人落ちてきても貴方だけは落ちてこない。
まだ落ちてこない、まだ落ちてこないと思いながら天国を見回す。
けれどやっぱり見当たらなかった。


「…名前さん」


私と名前さんは同じ村に住んでいた。
私は孤児(みなしご)ですぐに生贄にされてしまったが親がいた名前はあの後どうなってしまったんだろう。
貴方の親は今、ここ(地獄)で苦しんでいるというのに貴方は。
私は名前の成長姿を見て驚ぎざるえなかった。
それは鬼の象徴である角が二本あったのだから。


「貴方…鬼になったんですか?」


『丁も、そうみたいだね…知らなかった』


私を知らない鬼など地獄にいるのだろうか?
それはつまり閻魔大王を知らないに等しい。


「どうして、貴方は…」


『丁の次は俺だった。それだけのことだよ』


「は?」


それはつまり、あの村は結局私を生贄にしておいて村が改善しないとなったら次の子供を生贄にしていったというのか?
何百年も前に落ち着き始めていた怒りが沸々湧き上がってくる。


『あとは、多分丁と同じ、大寒地獄の獄卒なんだ、俺』


「ああ…だから、」


会いたかった会いたかった、何百年も前に私が先に死んでしまって会えなくなってしまった思い人。
やっと再会することが出来た。
死んでしまい、世を恨み、人間である時間より鬼である時間が長くなってしまったがやっと会うことが出来た。


「…よかったら、私の下に付きませんか、貴方と、名前さんと話がしたいことが沢山あるんです」


そんな私の言葉に笑ってくれた。
弱弱しい自分、人間だった自分がよみがえる。

そして私のもとについてくれて何百年目。
私が丁ではなく鬼灯になったこと村人の行く末、今の仕事について話した。
仕事も私と並ぶくらいの対応を亡者にする優秀さ。
皮肉にも私はあの村人が私を生贄にし、名前さんを生贄にしたおかげで再開することが出来肩を並べて仕事ができるようになった。


(まあだからといって感謝なんて微塵もする気ありませんけど)


そんなある日。
呟いたのだ。


『俺、黒澤様が好きだ』


一瞬、あのバカが脳裏に浮かんだが名前が違う。
どなたのことだとたずねれば天国の漢方薬局、極楽満月を営んでいる男のことだと言うじゃないか。


「白澤さんではなく…?」


『アイツじゃないよ、俺が好きなのは黒澤様だ』


―…また、またアイツが私にストレスを与えてくる。
名前さんを奪おうものなら神獣であろうと何だろうと殺してやる。


『俺のことが好きだと言ってくれたんだ。黒澤様は』


でも、黒澤って…誰だ?





「何で、僕こんなことされなきゃいけないの?今日は限度超えすぎじゃない?」


いや何時も超えてるけどさ、と言う白澤さん。
どんなに暴力を与えようと戻ってしまう、嗚呼なんて不愉快なんだろう。


「あなた、名前さんに何したんですか?」


「…名前?」


コイツなんかに仕事だからと言って会わせなきゃよかった。
この人の女好きは限度を超えているから男なんて眼中にないと思っていたが甘かった。


「黒澤様黒澤様と、うるさいんですよ」


「―…、ああ、それか」


そんな態度にもイラついて金棒を振り上げて叩き下ろした。


「…名前と付き合う気なんてないよ、名前が惚れてるのは僕じゃなくて僕だ」


何を意味の分からないことを言っているんだと顔をしかめる。
白澤さんは淡々と説明する。
何時もヘラヘラしている僕は白澤で、名前のいう黒澤は本性をむき出しにした僕のことを指していると。


「…それじゃあ何故付き合わないのですか?」


「そんなの決まってるじゃないか、僕は死なない、でも君たち鬼はいずれ死ぬからだよ!!」


「そうですか。なら私に下さい」


「!!」


そのとき、空気が一変した。
ああ、これが名前さんの言う黒澤さんか。
本性むき出し理性の欠片もない真っ直ぐな感情。
これに惹かれてしまったのか。


「そういや、僕も質問あるんだった」


「…なんですか?」


「僕のことは様を付けるのに、どうしてお前のことは呼び捨てなんだい?」


「ああ、それは私と名前さんが人間だったころ会っていて長い付き合いだからです」


そんなことは何の自慢にもなりやしない。
必要なのは時間じゃない、時間何て関係ない。


「でも焦らずとも貴方は投げているようですし安心です…いやそもそも」


「…?」


「貴方は神獣、私たちはおなじ鬼。人間と魚が愛し合えないように、あなたと名前さんが愛し合えるはずもありませんでしたね」


そういいながら私の心臓は鳴く。
種族が一緒だからといって愛につながるわけがない。
恋は誰でもできるのに愛し合うには、どうしても一人じゃできない。
私の方が好きなのに、いくら時間を費やしてもあなたが振り向くことはないのでしょうか。
ほら、聞いてごらんなさい。
貴方が恋した馬鹿は放棄してるんですよ。
ただ、種族が違うという理由だけで。


(私なんて、)


死してなお、生きている人を思い続けていたというのに。





『鬼灯、』


「…、名前さん?」


『大丈夫か、しばらく寝てないだろ俺があとやっとくから寝てろよ』


「好きです」


『…は?』


「貴方が好きです。名前、何百年も前から生きていたころから死んだときもそのあとも思いは途絶えたことがありませんでした」


嗚呼、どうして。
こんなに近くにいるのに。
同じ時間を生きるのに。
同じ種族なのに。
同じ場所で生きているのに。
時の流れは同じなのに。

どうしてこの思いは同じにならない。


「私は、貴方をずっと、」


思い続け、長い鬼の生。
きっと終わり尽きるまであなたと共に。

白澤さん、貴方が心を奪ったことで悩んでいる間。
私は名前さんの時間をいただきます。
貴方には出来ないこと。
私にしかできないこと。
それは何時までも一緒にいること、そして一緒に死ぬこと。

死ねない貴方には、できないでしょう?


「ざまあみろ、」


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