それは確かに君の体温だった

神様にいる島。
一面冬景色の小さな島の中にある小さな村。
ローは食料等の調達のために船をつけて島に降りた。
ペンギンたちに調達を頼み、自分は書店を巡った。
すると目に入ったのが「神様」の存在であり、それを村人に聞けば誇らしそうに村の中心にある塔を指さして「あそこに神様がいる」と告げた。
ローは気まぐれにその塔の前まで行くが厳重に守れていて正面からはとても入ることは出来なかった。(無理やりならば入れるが)
その塔の周りは湖で囲まれていて凍らないように警備の者たちが凍りそうな部分に特別な液体をいれていた。
拒まれたり隠されたりすると興味が膨れ上がるのが人間と言うもの。
ローは塔の窓に石を投げ込んで自分の能力で石と自分の位置を変えて侵入した。
塔の中は外とは違って警備が薄く誰もいない。
ローは疑問に思いつつも好都合だと神様に会いに行くことにした。
塔の階段を上り一番上にたどり着いたとき牢があった。
その牢の中に外を見ている人間が1人。


「お前が神様か…?」


声に反応して振り向いた「神様」は長く伸びすぎて床にまで散らばった髪を揺らして振り返った。
一瞬、華奢な体つきと長すぎる髪のせいで女かと思ったが骨付きや喉仏から男だと分かる。
雪のように真っ白な髪に真っ白な肌。


『…誰だ?』


声を発すればやはりそれは男のものであった。


「ローだ、神様がいると聞いて見に来たがただの餓鬼のようだな」


『貴様と同い年くらいだ、バカにするな』


ムッとした表情にローは疑問が増える。
これが神様?
神々しさや優しさ、嘘なら胡散臭さくらいあるかと思っていたが微塵も彼には感じられない。
そう、彼はどこからどう見ても一般的な成人した男であった。
しかし成人しているように見えると言っても何だか少し子供っぽい…。


「神様なのか、本当に」


『…そう、俺は神様だ。この村の人たちを守っている』


「それにしてはどう見ても監禁されているようにしか見えないがな」


そのローの言葉にカッとしたのか大きく口を開いて、息を吸い込んでそれをローに向かって「神様」は吐き出した。


「…っ!?」


グンっと後ろに押される感覚と異常なまでの寒さ。


(コイツ…吹雪をだしてやがる!)


そして冷静なローにはこの神様の正体が一瞬で理解できた。
寒さでガクガクと震える足に舌打ちを内心しながらも能力でサークルを出現させて吹雪を出す元凶の背後に立ち、口を無理やり閉じさせて後頭部を掴むと床に打ち付けた。


「能力者だな、神様気取りのな」


悔しげに床に顔を付けながらローを睨み上げる自称神様。
神様の正体はただの能力者か、そう思うとローは他の思考に頭を巡らせる。


(恐らくロギア系か、仲間にするには申し分ない)


『俺に触るな!』


考え事をしていたローに袖の長い服で隠れた腕が飛んでくる。
ローは離れると再び能力で牢の外に出た。


「俺と旅に出ないか?俺は海賊をしていてな、こんな狭い牢から出れるぞ」


『貴様、アホか?神である俺が村を放任できるわけないだろう』


「本当はお前は神じゃない、それにその長い髪を見る限り、長い間その能力のせいで村人に監禁されていたんじゃないか?」


確信をついたのか神様は目を見開く。
ローは思った。
こんな小さな村には能力者の存在が世界には沢山いることを知らず、彼をかくまった。
自分のムラを守ってくれる守り神のように。
実質、能力者である彼は村を脅威から守ることが出来る。(ロギア系ならなおさらであろう)


『村の人たちをそんな風に言うな!凍らせてやろうか!』


「じゃあお前、髪を上げてみろ」


『!』


床に散らばるほど伸びた長い真っ白な髪。
ローの言葉に肩を跳ねさせる神様は震える手で髪を上げた。
そうして現れたのは神様の両足にある頑丈な足枷であった。
ローは先ほど背後に回って押さえつけたとき見つけたものであった。


「監禁されて外の世界を知らないまま神様してるのがそんなに楽しいなら俺はもう誘わねえ」


『お前、何なんだよ…いきなり現れて勝手なことばかり言いやがって…!』


「…俺はこの島を拠点にここら辺の海を調べる。大体一か月後には次の島を拠点にしてここには戻らない。それまでに決めろ」


そう言うと窓に足をかける。
そんなローの後姿を見る神様にローは聞いた。


「…なあ神様、名前、何て言うんだ?」


『…名前』


その三日後、ローは名前に書物を持ってやってきた。
名前の前に書物を広げ外の世界の話をするとまるでファンタジーを聞く子供のように興味津々となっていた。
ローは本当に外の世界を知らないならな何時実を食べたのだろうかと気になって問うが本人はそのことの質問になると不機嫌になった。
試しに船にあった花を一輪持ってくると(ちなみにベポか摘んで飾ったものだ)まるで宝物を見るような表情になったが、その二日後にはその花は枯れてしまっていた。


『俺が冷たいから、凍ってしまったんだ』


「ならなおさら外に出るべきだろう」


『外に、行ったら熱すぎて溶けてしまう』


「そんなことはないだろ」


事実、似たような能力者であるクザンこと青雉は普通に生活している。
どんな能力者でも死にはしないだろう。


『俺、春の島にいってみたいな…』


「そうか」


『この島も雪景色と自然がいっぱいで綺麗だけど、外にはもっと素敵な景色があるんだろ?』


「ああ、」


『ローの、目になれたらな…』


俺は立ち上がって名前に近寄ると思いっきり刀を振り下ろして足枷を切り落とした。
そのとき、名前の髪も少し切ってしまったが歩くには邪魔だからいいだろう。


「自分の目で見ればいいだろ」


俺は抱き寄せると抱えて塔の窓から飛び降りた。
ここ数年歩かなかった足は細く、弱弱しかった。
俺の肩に触れる手はやっぱり長すぎる服のせいで名前の体温を感じることは出来なかった。


「神攫いだ!」
「神を攫う気か、海賊!」


村人たちに発見されたため、名前を一度地面に下ろすと能力でサークルを展開させた。


『ロー、村人たちは傷付けないでくれ!』


そんな面倒な注文をするな、と言いたかったがしょうがない。
足止めするように能力を発動させてクルーに連絡を取る。
そんな連絡に意識を取られた瞬間であった。
歩けない名前が凍っていない湖に突き落とされたのだ。

俺は、なぜか能力者であるのに、飛び込んでしまったのだ。
湖へと。
歩けないような男のために、どうして。
沈みながら理解した、嗚呼、俺は…。

耳に聞こえたのは、「キャプテン!」と叫んでいるクルーの声だった。
ああ、間に合ったのか。
なら俺も名前も救い上げてもらえることだろう。
身体が重い、沈む、冷たい、痛い…。
視界に入るのは俺より先に沈む名前が"コチラに向かって泳いでくる瞬間だった。"


「!?」


そうして一気に周りの水が温かくなって俺は名前の手によって湖から救い出されたのだ。


「な、なんで、」


『ロー、早く、船に、』


凍える俺はクルーによって船に乗せられて名前も一緒に島を逃げ出した。
俺は冷え切った身体を温めるためシャワーを浴びて温かな服装で甲板にでた。
すると名前が空を見上げていた。


「お前…能力者じゃなかったのか?」


するとローは一気に過ごした数日を思い出した。
足枷があってもロギア系なら抜け出せるはずなのに。
ならば海牢石か、といえば能力を使うことは出来ていた。
能力者であるのに溺れない、これはつまり。


『俺は、雪男なんだ…』


「!」


『もっと言えば精霊、だから…ローの船にいれるのも、こうしてローと話していられるのもあと少しなんだ…』


俺は駆け寄って手に初めて触れた。
その瞬間、人の体温によって溶ける肌。


「待てよ、待て、消えるのか?お前は、溶けるのか?」


『村の人たちは異端の俺を守るためにあの塔に閉じ込めていた』


だから名前は村人のことを庇っていたのか。


『温かいな…ローの手は』


「お前、離せよ!」


『触れさせてよ、もう、時間がないから』


俺を助けるため湖の水温を上げた名前の身体は溶けるしかなかった。


『外に出てみたかった…でも満足だ、俺は、初めて恋が出来たんだ』


抱きしめれば冷たい体温が確かにそこにあって、それはみるみると溶けていく。
小さくなっていき、水となっていく。


『ロー、君が来るのが楽しみで仕方なかった』


「お前みたいな歩けもしねえ役立たずをなんで船に乗せたか分かってんのか?」


俺から零れた液が名前の頬を伝うが、それすらも名前の身体を溶かしていく。

俺の言葉に名前は目を見開いて、


『生きててよかった…』


そう笑った名前の体を強く抱きしめると、それは溶けて腕をすり抜け濡らすだけだった。


これは俺がまだ海賊を始めたばかりの頃の。
小さな恋の話。
人間と雪の恋物語。

俺は雪が降ると、名前を思い出しては彼の体温を思い出すように雪に触れるのだ。


たった一瞬であったが確かに彼らは恋人同士であった
バッドエンドなロー夢が書きたくて衝動的に書きました
最近バラードばかり聞いているせいか悲しい話ばかり書きたくなります
本当は中編で書きたかったけど無理そうなので短編です

解説
神様の正体は雪の精霊です
つまり身体が雪でできているので人の体温や温かな気温の場所では溶けてしまいます
村人はそんな異端な主人公を溶けないよう守るため牢に閉じ込めました
それを知っている主人公は村人を好いています
ローとの出会いにより恋い焦がれ、結果、外の出れば死んでしまうことを知っていながら村を抜け出し溶けて水となってしまいました

まあ私が雪で解けて死んでいく主人公を抱きしめて泣くローが書きたかっただけなんですがね!

「お前みたいな歩けもしねえ役立たずをなんで船に乗せたか分かってんのか?」

というローのセリフは遠回しな告白です
ローは「好き」だの「愛してる」だの言いそうにないので
それにこたえるように「生きててよかった」と死んでいった主人公はきっと伝わったんだと思います

たった数秒の恋人同士というわけです
なのでこのサブタイトルを付けました



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