04
鳥籠に生まれた子供は皆美しい緑の瞳を持つ。
その瞳だけでも莫大な金で売れる。
生まれた子供は直ぐに男娼、遊女としての教育を受ける。
メイヨーもリアも当然受けていた。
『俺に触るな!』
しかし。
リアは人に触れられることが嫌いな人間だった。
別に珍しい事じゃない。
人に触れられるのが嫌いな人間なんてよくいる話しだ。
「でもそんな子が生まれたらどうすると思いますか?」
徹底的な教育を施す。
リアのように容姿が整っていれば尚更。
子供の頃から15歳まで徹底的な教育を施された。
「詳しいことは分かりません。私は12歳の時には座敷に上がっていましたから、でもリアの体の傷は日に日に増えてゆきました」
リアが死ぬ思いで提案したのは悪魔の実を食べて強くなり村を守ること。
しかし問題があった。
この村を襲うもの等いなかったのだ。
瞳に魅了された者は一族を傷付けない。
だから護衛など門番など必要なかったのだ。
「私たちには言ってはならない言葉があります」
島から出たい。
「この言葉を言えば私たちは村の長(おさ)に捕まります」
捕まると次の日には広場に張り付けにされる。
一族全員の目の前で意識のあるまま目玉をくり抜かれる。
緑の瞳は高く売れるから。
ショック死した遺体はだいたい海へと投げ捨てられる。
「でも、あなたなら…私のわがままなのは理解しています。島から連れ出せば色々と迷惑もかかる」
「…」
「無理にとは言いません、でもよろしければ是非、助けてあげてください」
深々と頭を下げられる。
何故彼女はこうまでして今日上陸したばかりの海賊のローに頼み込むのだろう。
「何故、リアは殺されてしまうと?」
メイヨーが最初に言った言葉を聞く。
リアは実際一度も島に出たいとは言っていないし言う気も無さそうだ。
「売れない子は目を売るからです」
なるほど。
体で売れないなら目玉を売る。
そちらのほうが金になるからか。
ローは考えておくとだけ伝えた。
メイヨーによればリアは普段村の入り口に立っているか図書館にいるらしい。
面倒事はなるべく避けたい。
別にリアじゃなくともこの広い海には仲間に出来る奴など山ほどいることだろう。
面倒事に巻き込まれる前にこの寒い島から出て行くのが得策ではないのか。
そうローは思っていた。
(出て行く前に一度だけリアに会ってみるか…)
図書館にいるという言葉の通りに入ると大量の本があり驚く。
ぐるりと見渡すと本はすべて図鑑である事が分かった。
人はおらず、奥の方に気配が一つだけ。
向かえば先ほどまで部屋で話しをしたリアが図鑑を読みあさっていた。
先ほど会話したときも外の世界の話に興味を示していた。
何も咲かない何もない冬島。
ただ雪だけが降り積もる。
村を入る前にあった木々も葉や花はない。
この鳥籠にある図鑑は外への憧れを示しているように思えた。
「おい」
『!、トラファルガー…』
さっと図鑑を自分の後ろに隠す。
「俺たちは明日、この島を出る」
一瞬だけ、ピクリと肩がはねた。
「おそらくお前のチャンスは明日までだ」
本物の空に憧れる鳥。
鳥籠の鍵はないのに出れないのは。
恐らく教育によって支配された恐怖から。
『黄色い花に緑の木…青い空…図鑑で見たカラフルな世界を…お前と行けば見れるのか?』
「ああ」
唇が震えている。
気持ちは決まっているのに言い出せないほどの恐怖を植え付けられているのだろう。
体の痣がそれを理解させる。
『トラファルガー…俺は…外に、』
その時。
外から叫び声が聞こえた。
複数の叫び声。
ただ事じゃないのが分かる。
『外にでたいけど、家族はおいていけない』
図書館を出て行くリア。
滞在は長くなると思っていたがかなり早くなるだろう。
後はアイツの決断次第。
来れば乗せる。
それ以外ならば新しい島を目指す。
それだけだ。
緑の瞳を見ないのはー…。
きっと緑の瞳に魅了されたから連れて行きたいと思ったと思わせたくないためなのだろうか。
空に憧れる飛べない鳥