03

部屋の香りは心地いい。
ほのかな淡い光はとても官能的。
目の前に座る警戒心を解かない男は渋々立ち上がれば用意されていた赤が主体の白い花の柄が入った着物を取ると乱暴に己の肩へとかけた。
白い肌に映える赤。
酒とつまみを用意すると俺の目の前においた。


『それで?お前は何をしにここに来たんだ?』


客でもなければ人攫いでもない。
気にするのは体の痣だけ。


「俺は医者だ」


『なかなか面白い冗談だ』


酒を注ぐ気はないと酒の入った瓶をローに渡しながら警戒心を解かない。
刺青だらけで若い男で人を気絶させるような奴が医者だといって誰が信じるというのだろうか。


「お前を仲間として迎え入れたい」


『お前、なに言ってるか分かってるのか?』


ここは鳥籠。
鳥籠にいる鳥は外に出ることは出来ない。


「俺は海賊だ、欲しいものは奪うだけだ」


『お前さっき医者って言わなかったか?』


ローは仕方ないと自分の手配書を見せた。


『死の外科医トラファルガー・ロー?』


なるほど、とリアは頷く。


『しかしその言葉は鳥籠(ここ)では御法度だ、滅多なこと言うんじゃない。この島から出られなくなる』


「物凄く強い奴でもいるってのか?」


『緑色の瞳』


いちや一族独特の緑の瞳。
それを見た者を魅了し惑わせる宝石とも呼ばれる。
実際瞳だけでもかなりの値がつくらしい。
その瞳を見せればもう一度見たいとこの島に滞在し続ける。
村に入る前に道ばたに転がっていたのは金がないのに興味本位で黒い布を解いてしまった者達。


「全員が全員それに惹きつけられるわけじゃないだろう」


『なら、見てみるか?』


「!」


『こんな目、俺はいらない』


「リア…?」


『こんな目があるからこんな島が生まれるんだよ!』


ローはこの時リアから何かを感じ取った。
島から出たいという強い思いだ。
最初は良い戦力になると思っていた。
ならないのなら売ってしまえばいいとも考えていた。
しかし今はこの島の秘密とー…リアの本心に触れたいと思っていた。
やっぱり思っていた通りになる。
この島の滞在は長い。





ローは時間になると部屋を出た。
何度か船に乗るように頼んでみたが唇をきつく締めて何も言わなくなる。
逆に外の世界の話しをすると興味津々となっていた。
外に出たいのに外にでれない。
体の痣。
ローの頭の中で嫌な予想が組み立てあげられる。

ふと、自分の肩に手が乗る。
思わず刀を構えようとしたが曲げられた刀を見て舌打ちする。
ローの肩に手を置いたのは遊女。
初めて会ったあの娘だ。
確か名前はー…。


「メイヨーです、トラファルガー様良かったら私の話を聞いていただけませんか?」


人通りの少ない路地に連れ込まれた。
メイヨーは念入りに周囲を確認するとローに小さな声で話しかけた。


「鳥籠からリアを連れ出して下さい、お願いします、あの子は殺されてしまう」


メイヨーは目元を覆う黒い布を涙で濡らした。

鳥の鳴き声と泣き声



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