02
いちや一族は皆、目を隠すように黒い布を目元に巻いている。
その布を取るも取らぬも客次第。
見ないでと隠されたものほど見たくなるのは当たり前だというのに。
美しい緑色の瞳はまるで悪魔の秘宝のようなもの。
その瞳を見た者を魅了し惑わせる。
『"反逆的行為"』
指を鳴らすとローの持っていた刀がガクンと曲がり自分の方向へ刃を向けた。
まるで刀が主人に反抗しているかのように。
『これで刀も振るえない、後はこのサークルを消すだけ』
ローは自分の刀が曲がってしまったことに少しながらショックを受けるものの口端を面白げに吊り上げた。
確信した合図であったー…。
「お前の能力は理解した」
突然走り出したローにリアは動揺しながらも技を繰り出す。
『"屈 折 世 界 !"』
大きな音を立てて周りにある木々が曲がり、折れた。
地面へと倒れる瞬間に再び指を鳴らし下へと折れる軌道を曲げ、ローへと飛ばす。
しかしこの技は相性が悪すぎた。
ローの方向へ飛ぶと言うことはローが展開していたサークルにわざわざ突っ込んできてくれるのだから。
「シャンブルズ!」
『!』
降る雪と折れた木々の位置か代わりリアに向かってくるー…。
自分に向かってきた木々の軌道を曲げて避けるのに必死でローが目の前まで来ていたことに気づけなかった。
「お前の能力はマゲマゲの実と言ったところか」
急接近したローの身体を可笑しな方向へと曲げてしまおうと手を伸ばしたがローの方が行動が早かった。
「メス」
とんっと胸を押され出てきたのは自分の心臓。
目を見開いたリアだが心臓を取り除かれたショックで気絶するとローに倒れ込んだ。
キャプテンの勝利に喜ぶクルーにローは告げた。
「思わぬところでいい拾いものをした」
「え?」
「コイツを船に乗せる」
ローの提案に驚きながらも今に始まった事ではないとクルーたちは苦笑いで頷いた。
このキャプテンに惚れてついてきたのは俺たちだから。
ローが気絶したリアを肩に担ぎ上げると顔を隠していたフードが落ちた。
シャチはその顔を見て驚愕した。
「キャプテン!ソイツいちや一族っすよ!」
「…何?」
フードが取れた顔。
黒髪に目を覆う黒い布。
黒い布はいちや一族の証拠ー…。
「いちや一族を鳥籠から出すのは確か…」
「この島一番の禁止事項っすよね?」
怖がるシャチとペンギンにローは笑う。
「海賊が島の掟を守るのか?」
▽
『う…っ』
ローは一度クルーたちを船に戻すと自分とリアだけで村に入ることにした。
ペンギンが「遊郭…俺のパラダイス…」とぼやいていたのは聞こえないこととして。
村に入ると一族がローに抱えられたリアを見て驚愕とした表情をした。
「俺は客だ」と告げ、「コイツが気に入った」と言えば喜んで部屋は貸してくれたがリアでいいのかと問われた。
島全体が遊郭と言われる場所ならば同姓同士で入ることなど驚かれないと思っていたが違うのだろうか。
そう思っていると慌てたように遊女は言う。
「リアは落ちこぼれですので座敷に上がるのは初めてでして」
リアは男娼としてかなりの落ちこぼれらしい。
端正な顔に生まれたというのに、一族として生まれたというのにリアは男娼になることを拒み続けた。
高いプライドがあり人に触れられることが嫌いなのだ。
部屋に通してもらい用意されていた布団に寝かす。
腕を見ればところどころに痣が見受けられた。
あのメイヨーと呼ばれた初めて会った遊女の手首にも痣が見えた。
ローは医者としてそう言った観察力が強く村にいる一族の服裾から見える痣が気になっていた。
「…」
この島は何か気持ちが悪いー…。
そう思ったローはリアにどれほどの傷や痣があるか確認するためにコートに手をかけた。
その時、バシッと手を叩かれた。
目を覆う黒い布のせいでよく顔が見えなかったが目を覚ましていたらしい。
『貴様…そっちに興味があるのか』
「違う、お前の痣を気にしている」
『!』
肩の動きは動揺を感じさせた。
ローは思う。
この島にいる時間が長くなりそうだと。
羽を傷つけられた鳥