15
『1番グローブはここか…』
トラファルガーに指定された場所に行けば「HUMAN」と大きく看板が立てかけられた会場が見えた。
会場の周りには上品そうな服やドレスを纏った人たちが多い。
するとまた人々が地面に膝をつけ始める。
また天竜人が来たらしく、さきほどの男ではなく女とオジサンだ。
俺は彼らとの接触を避けるために物陰からいなくなるのを待ってから中に入った。
中は広く、舞台を正面に座席がズラリと並んでいて客層は服装から見て金持ちが多いようだ。
何だか嫌な気分だとフードを深く被り直し、目元の布がしっかりと巻かれいるか確認する。
俺がここにいるのを知られれば真っ先に商品になってしまう事だろう。
(さっさとトラファルガーたちに合流しよう)
「天竜人、奴隷に人間屋…!」
すると会場に入る寸前で足を止めて入口に寄りかかった男が口を開く。
座っていた客もその男を見てどよめく。
「欲をかいた権力者の純心に比べたら世の悪党の方がいくらか人道的だ」
ふっと、顔を確認するように視線をあげれば新聞で見覚えのある奴がそこにいた。
(確か、キャプテン・キッドとか言ったか。ということは周りにいるのは船員か)
あまり厄介ごとには関わりたくない、と彼らの間を抜けて会場に入る。
そして自分の船長の姿を探す。
「キッドの頭、あれを…」
「ん?見た顔だな…北の海の2億の賞金首トラファルガー・ローだ…ずいぶん悪ィ噂を聞いてる」
言葉に視線を向ければキャプテン・キッドと視線があってしまう。(あっちからしたら顔しか向けられていないと思うが)
そして自分の行動にしまった、と思うのには時間はかからなかった。
アイツはきっとカンがいいんだろう。
俺がトラファルガーの名前に反応したことくらい分かってしまう。
「…アイツぁ、もしかして」
「リア、」
キャプテン・キッドの思考を遮る様に俺の名前をトラファルガーは小さく呼び、隣に来いと指で示す。
そのとき、クツクツと後ろで面白いものを見つけたと言わんばかりにキャプテン・キッドが笑う。
しかし確信はしていないのか俺を見るだけ。
「いやあ、バレてないっぽいな。リア以外も目隠してるし誰か分かんねえんだよ!」
というシャチ先輩のお気楽なセリフは全員スルーしている。
確かに今ここにいるメンバーで顔が見ええているのはベポとトラファルガーだけだが。
どう見たって俺だとばれているだろう、と言いたかった。
「バレても構わねえ、お前はすでに俺たちの船員なんだからな、」
とん、と背を押されて最近入れたばかりの刺青を思う。
この背中に大きく入れた刺青は俺の誓いだ。
迷惑をかけてもいい存在、仲間と言える存在と共に歩もうと決めた。
それはローだけでなく、ハートの海賊団船員すべてに捧げるもの。
『ああ、そうだなトラファルガー』
ああ、俺はこの海賊団に、ローに出会えてよかった。
そしてまもなくしてオークションが始まった。
楽しげにやっているがこれはれっきとした人身売買。
人道的でなく、人権そのものを売っている。
つまりここの客たちは今オークションの商品として震えている彼らなど家畜のようにしか見ていないのだろう。
人間の男、10人奴隷、絶世の美女。
どんどん売りさばかれていく。
彼らの瞳には生気がなく、カタカタと身体を小さく縮めて震えている。
『…ロー、このヒューマンショップを見に来たのには何か理由があるのか?』
「…さあな」
『教える気はないってことか』
「いずれ教える、それまでは…」
「きゃーっ!!!」
会場がざわつき、一気に舞台へと視線が向けられる。
商品として紹介されていた男が血を流して倒れたのだ。
幕がひかれざわつく会場。
(奴隷になることより死ぬことを選んだのか…)
『…っう!』
「リア?」
一瞬、フラッシュバックした。
いちや一族中でもそんな子がいた。
外の人間と恋に落ち、鳥籠から逃げることが叶わないと悟った瞬間、心中もしくは自殺する。
その方が幸せだと。
他人にもう抱かれるのは嫌だと、そんな毎日の繰り返しならば死んだ方がマシだと。
「顔が白いな、汗も酷い。ベポ何か飲み物持ってないか」
「ジュースしかないよ?」
「むしろ糖分があったほうがいい」とトラファルガーは俺に飲ませ背もたれに寄りかからせると楽な姿勢にしてくれた。
隣に座っていたシャチ先輩が心配そうに俺を見ている。
「リア、もしかしたらフラッシュバックしたんすかね」
「だろうな、できればここには来させたくなかったが…」
そうか、その理由もあってトラファルガーは俺を一人で別行動させたのかもしれない。
また、気遣わせてしまったのか。
「5億で買うえー!5億ベリィィイイイイー!!!」
シンっと会場が静まり返った。
天竜人があの人魚を5億で買った。
物欲しさに金を出す姿は鳥籠に来る、いやしい客と同じ。
一瞬の欲を晴らせば飽きてしまう癖に。
「…リアちゃん、殺気漏れてて痛いよ…」
『あ、すんません』
そのときだ、「ぎゃあああああ」という叫び声と一緒に会場の天井から降ってきたのは、これまた新聞でよく見る麦わらだ。
かなりの勢いで突っ込んできたせいで爆風が会場内で起こり、俺のフードが飛ぶ。
しかしそんなことに気付かないくらい麦わらは突飛な行動をとりまくる。
人魚の子を「ケイミー!!探したぞ!!」と言うと舞台に向かって走り出せば魚人の男がそれを止め、差別的な言葉が会場を騒がせる。
(この島は、魚人が差別を受けているのか!?)
何が何だかわからない内に銃声がこだました。
魚人は倒れ、血を流す。
俺は驚きのあまり思わず立ち上がる。
「お父上様!ご覧ください!魚人を捕まえましたえ!自分で捕ったからタダだえ?」
『だからそれは、玩具じゃねえって言っただろうが…!』
怒りが頂点となる。
駄目だ、こういう馬鹿は見ていられない。
まるで俺の母国を見ている気分になって、ひどく不愉快である。
ローはそれを分かってくれているのか誰も止めない。止めるはずがない。
きっと止めるような人に俺はついて行かない。
「ん?お前なんだえ…んんんー!?お前その黒い布…鳥籠の人間じゃないか!?」
『…!!』
ハッとフードを被るがもう遅い、というよりもその行動が肯定を表してしまった。
「お前も一緒に捕まえてやるえ!人魚にいちや一族!魚人!今日はついてるぞえ!」
手を伸ばされた瞬間、関係ないもう関係ないと腕を伸ばそうとすると天竜人が吹っ飛んだ。
『え…?』
後ろで座っていたローが笑った気がした。
『麦わら…?』
突飛な海賊団