12

『あ、トラファルガーこれ買え』


「お前…」


最近、リアは俺の船に馴染んできたのか少し明るくなった。
俺の船には幸いにも悪いことを言う奴等がいないから安心していたがよかったとは思う。
だからといって俺は船長であり自分が船員ということは忘れてはならない。
しかし甘やかしてしまうのは何故なんだろう。
リアは大きな白紙の日記帳を欲しがった。
そういえばリアが船に乗った目的は自分の母国に沢山の花を届けることだった。
それで押し花をしようということなんだろう。
これくらいなら買ってやると数冊買ってやった。


「お?リア何してんだ?」


「おーおー可愛い趣味だな」


『押し花、趣味じゃなくて母国に届けるためだって』


ペンギンとシャチに絡まれるのも日常風景になってきたがリアが唯一警戒している存在がある。


「なになにー?」


『!!』


べポが来た瞬間、立ち上がるリア。
警戒している存在、それは航海士であるべポである。
人間の形をしていないのになんでしゃべれるのだと俺に問いかけてきたこともあった。
何を食べるの?アザラシ?怖い。と言わんばかりに警戒している。


「あいー」


『…っ、無理!』


俺の後ろに慌てて隠れる姿。
その様子を見てべポはしょげてしまう。
撃たれ弱いから優しくしてあげてほしいのだが…。


「おい、リア今日はべポと一緒に掃除だからな」


『ロー…!』


こういうときにだけ名前で呼ぶのは卑怯だと思う。
しかしこの二人だけ打ち解け合うことが出来ないのは問題である。
悔しげにリアはべポの傍に近寄ると警戒したままの視線を送りながら廊下を歩いていった。
しかし心配であるが自分も最近買ったばかりの医書を読みたいのもある。


「よっしゃあ!ペンギン!見守りに行くぞ!」


「おう!」


「・・・」


この二人は完全に兄か親気取である。
べポと一番年下のリアが可愛くて仕方ないのだろう。
俺はこの二人が見守るのならば大丈夫だと自室に戻ろうとしたが「あ、キャプテン!」とシャチに呼び止められた。
顔は見えないがきっとキラキラした表情をしているに違いない。


「キャプテンも見守りに行きませんか?」


「・・・」





ああ、俺は何をしているのだろう。
こんな年齢になって19歳の男と自分の航海士を影から見守っているのだろうか。
いい大人の男が三人で。


「ああーリアかわいいなー弟にしてえ」

「シャチ、お前だけ先輩って呼ばれてんだろ」

「えへえへ、知ってた?」

あ、べポにぶつかって土下座する勢いで謝ってる。
俺だって唯一リアに呼び捨てにされている。(ああ俺はなんでコイツらにさりげなく張り合っているのだろう)

リアは警戒しながら掃除を続けているがべポもべポでリアにこれ以上怖がられないように神経質になっているようだ。


「…これ終わったら一緒に」


『!!!』


「あい―…」


ダメだ。
根本的にリアがべポを怖がっているんだ。
今思えばリアの母国である「鳥籠」は冬島で人間以外は育ちにくい環境となっていた。
だから熊を見ることが初めてだったのだろう。
たしかに本や図鑑でしか見たことがない生物が突然自分の目の前に現れたとしたらこんな風になるのかもしれない。
しかも喋るうえに機敏な動きをして人間の服を着ているのだから。


「お、おれのこと怖い?」


『…、』


「べ、別にとって食べたりしないよ!」


べポの努力も悲しいことに響かない。
話しかけるだけで俯いてしまうリアにいべポも若干涙目である。
もう諦めようとしたのか離れて掃除をしようとしたべポを追いかけるリア。


『あ…のさ、分かってるから、もう少し待ってくれないか?』


「…あいあい!」


ペンギンとシャチは涙を流して我が子の成長に感動しているようであった。

数日後、べポのお腹に寄りかかって眠るリアが目撃された。


白くまに乗っかる
少しずつ成長していく19歳



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