09

「よし、これでいい」


『本当に医者だったんだな…』


リアの傷付いた体に湿布を貼ってやりながら軽く処置をする。
素人でもやろうと思えば出来ることをしただけなのにリアはじっくりと見ていた。
顔の辺りに全く傷がないところが嫌だ。
外見が整っているリアを売り物にするために見える場所には傷を作らなかったのだろう。
俺のパーカーを着たリアはソワソワとして落ち着きがない。
そろそろ船が新しい島に着くと告げてからずっとこんな感じだ。
潜水艦の船では外は見れないが雪はもう降っていないだろう。


「リア、そう言えばお前寝床で寝てないらしいな」


クルーたちはみんなハンモックだらけの部屋でまとまって寝る。
もちろんリアのスペースもすぐに仲良くなったペンギンの隣に設置したがそこで寝ないらしい。
なんと、廊下でかけ布団だけをハンモックから引っ張り出して寝ているらしく。
寒さには慣れているのかも知れないが困りものである。
何がそんなに嫌なのか。


『人と一緒に寝るのが苦手なんだ』


「…そうか」


そう言えば鳥籠でも触れられることが嫌いでコイツは落ちこぼれだったのを思い出した。
しかし廊下で寝るのもみんな迷惑だろう。
俺はため息をついた。
特別にと部屋を与えるわけにはいかない。
新人で年下のリアが個室を与えられたと知ればクルーたちも個人部屋がほしいと騒ぐに違いない。


「…俺の部屋の前で寝ろ、中には入るなよ。これは護衛という仕事だ」


新人で能力者ならこれでいい。
中に入れてあげても構わないのだが本人が人と寝ることを拒むのだから廊下なのは変わりないが出入りの多い寝室前よりは出入りの比較的少ない船長室の前の方が迷惑も少ないだろう。

明日には島に上陸することが出来るだろう。
そしたら寝間着と目元を隠す布や日用品を買い与えてあげよう。


ー…朝、目が覚めてドアを開けると廊下でブランケットを体に巻き付けて眠るリアがいた。
フードを被っているのが少しずれて寝顔が見える。
見えてしまうと他のクルーがあれかと思ってフードをかぶりなおさせるとき、髪が指に触れて。
サラサラとした黒髪が指に心地よさを感じさせる。
暫く指に巻いたり絡ませたり遊んでいたが廊下の寒さに体がふるえた。


(冬島出身とはいえ深海なのに寒くねえのかコイツ…)


仕方ないと近くにあったコートをブランケットの上から被せた。
ないよりマシだろうと。
するとクンクンと鼻が動いて、


『とら、ふぁるがー…』


俺は思わず部屋に入った。
犬かアイツはとため息。
心臓に悪いと頭を掻いてからふと、「なんで隠れているのだろう」と疑問に思ったが気にしないようにした。





ー…触れられるのが苦手なのに。
どうしてトラファルガーにあのとき触れられそうになったとき俺はその感触を待ったのだろうか。
トラファルガーに触られるのは嫌いじゃない。
鳥籠にいるときは吐き気がするくらい嫌いだったのに…。


『ん…』


「お、起きたか」


『シャチ…先輩?』


目が覚めるとシャチ先輩が俺の体を揺すっていた。
そう言えばシャチ先輩に触れられるのも嫌じゃない。
でもトラファルガーとは違う…何か。


「もう朝だぞー朝ご飯食べれるか?」


『あ…食べれる…』


体を起こすと目に入るコート。
一目でトラファルガーのものと分かる。
シャチ先輩は驚く俺を見て笑うと「キャプテン、優しいだろ?」と言うものだから殴っておく。
「なんで!?なんでなの!?」とうるさい。
そんなの、言われなくたって分かってる。

シャチ先輩が俺を心配して面倒見てくれるのもトラファルガーが優しいのも知ってるのに。

(迷惑かける、俺が嫌い)


いちや一族であるだけで迷惑なのに、この態度の大きい性格がさらに迷惑を増やす。

ー…お前はやはり役立たずだな
ー…体に触れられたくない?恥曝しめ!
ー…金儲けも出来ない邪魔者が
ー…だったら目玉でも売れ、
ー…お前に差は目玉しか価値のない存在だからな

(ごめん…っ!)


鎖が解けることはなく
幼い頃からの教育は人格の完成に深くかかわります
思考や習慣、リアにはそれが強く残っています



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