08
まったくもって。
リアの元々なのか、いちや一族だからなのか分からないが人を無意識に誘うのが上手い。
何時も神経張りつめている癖に嬉しいことには素直で感謝の言葉も述べる。
飴と鞭の使い分けがうまいと言ったところか。
キャプテンに紹介された新人クルーはとんだ爆弾である。
【シャチ的評価】
「お、いたいた!リアだっけか?俺はシャチ、よろしくな」
船内を歩いている俺たちとは違う服装を着た後ろ姿に先日紹介されたリアだと確認する。
肩をポンと叩いて挨拶すると立ち止まり俺を見た。(と思う、顔が見えない)
見覚えのある服は恐らくキャプテンのもの。
背格好も似ているし貸してあげたのだろう。(ああ!キャプテンは何て優しいのだろう!)
『どうも…』
愛想はあまりよく無さそうだ。
それとも緊張しているのか。
おそらくは両方だろう。
もしかしたらこの船で一番年下なのかも知れないし、ここは先輩としてしっかり面倒を見てやりたい!
「船内は把握できたか?何時頃俺たちの部屋で一緒に寝れるんだ?」
『知らねえよ、うっせえな』
…前言撤回。
この生意気な後輩殿をしっかりと指導しなくては。
去っていこうとするリアの手首をつかめばビクリと大きく肩を揺らす。
思わず手を離して腕を見ると痣が見えた。
怪我をしていたのか。
「わ、悪かった。でもな、年上や先輩にそんな言葉は駄目だと思うんだよ!」
口元だけでは分からないが一瞬だけ口元がポカンとした表情になった。
ああ、こういうところが子供なのかも知れない。
だなんてニヤニヤしてると指をパチンと鳴らす。
そして俺を襲ったのは激痛であった。
「うぎゃあああ!!いってええええ!体が変な方向に曲がってるうううう!!」
そうだ、キャプテンから聞いていた。
コイツ能力者だ!
確かマゲマゲの実。
ありとあらゆるものを曲げることが出来る屈折自在人間!
だけれど生き物を曲げるにその対象物に触れる必要があると聞いていたのだけれど…。
「あ…」
触ってんじゃんんんんんんんん!!
自分から腕つかんで触ってんじゃんんんんんんんん!!
「ごめんねリアちゃん、許して、これ以上されると死んじゃうから」
『俺に曲げられても気絶しないとかあんた結構強いんだね』
…これはもしかして好感度アップ!?
なんて考えが甘かった。
『どの程度まで曲げれば気絶するか試してみたい』
「やめてええええええええ!!!!」
パチンと音が聞こえたとき俺はきっと涙目だったと思う。
だけれど先ほどまでの痛みはなく体は真っ直ぐになっていた。
直してくれたのかもホッとする。
ふん、としたように歩き出してしまうリア。
俺はポリポリと頬を掻く。
どえにもこうにも扱い方が分からない。
どうやってキャプテンはリアを連れてくることが出来たのだろうか。
でも、アイツは仲間だし。
年下だし後輩だから追い掛けた。
懐きにくい動物の頭をなでてみたくて。
「リア!係りの仕事教えるから来いよ!」
『!!!』
口をポカンと開いて俺に腕を引かれた。
この船では掃除、買い出し、見張りなど様々に仕事が分担されている。
そのためリアにもその仕事を教えてやる。
今日の俺の分担された仕事は掃除。
用具室からモップやらほうきやらを取り出して未だ呆然としているリアに持たせる。
「掃除はしたことあるか?んじゃ順番だけパッパッとー…」
『…なんで?』
また怒られるのではないかと体を思わず固まらせてしまうが聞こえてきたのは小さな声。
『俺…いちや一族なのに、なんでそんなに普通に接すんの?』
そのとき理解した。
…ああ、そっか。
不安だったのかも知れない。
この船に乗ってくる奴にもいる。
自分はこうだから、ああだから。
でもなんでそんなに普通に接することごできるの?
って聞いてくる奴。
リアはまだ子供だし色々不安だったのかもしれない。
俺は笑った。
「この船にはいろんな奴いるから、一族とか気にしてねえよ」
『ー…』
これこれこれ!
やっべえええ!
好感度アップ間違い無しだよ!
もうシャチ先輩っ!ってなるよ!
『あ、ありがとう、ございます』
「ー……!!」
か…かわいいいいいい!!!
懐かなかった動物が初めて懐いた瞬間みたいに俺は感動した。
「ぐがっ!?」
また変な方向に体が曲がる。
何事かとリアを見れば拗ねたような口元。
『あと…子供子供って…俺もう19歳だから。あんま調子に乗らないでください、シャチ先輩』
「!」
スタスタと走り去る後輩の背中に俺は口元をゆるませた。
君はもう仲間なんだよ
おまけ
「リアちゃーん、曲がったのなおし忘れてるよう…」
シャチはお茶目で明るいイメージ