07

真っ白な世界が俺たちいちや一族の全てだった。
降り積もる雪は木々に花を咲かせることもない。
生命も人間以外あまり生まれてくることはない。
だからみんな憧れるのだ。
なけなしのお金で食糧と数冊、図鑑を買う。
見たこともないようなカラフルな世界に憧れているから。
黄色い花、青い空、緑の葉っぱ。

俺はトラファルガーの船に乗り込んだ。
男娼として落ちこぼれだった俺は何のお金稼ぎもできなかった。
一族の何の役にもたたなかったのだ。
だからせめて、みんなが憧れた世界を見に行こう。
そしてカラフルな花々を押し花にして本にして持って帰るから。
そしてその花を見たみんなでいちや一族の歴史を変えよう。
みんなが何時だって望めば外の世界に羽ばたけるように。


『トラファルガー…』


「あ?」


『暖かいな…雪が降っていない空を初めて見た』


ああ、とトラファルガーは俺が見上げる空を見るとブルリと大きく体を震わせると俺の腕を掴んだ。


「まだまだ暖かくなんてない場所だ、中に入れ仲間も紹介しよう」


俺は思わず足を止めた。
どうしたのかとトラファルガーは俺を怪訝そうな表情で見た。


『俺…この船にいてもいいのか?』


唐突に不安になるそれ。
俺は腐っても落ちこぼれでもいちや一族なのだから。
いちや一族が外に出ていい事などあるはずがない。
それを知っていて俺は昨日会ったばかりのトラファルガーに背負わせるのだろうか。


「俺はオペオペの実の能力者だ、お前が邪魔だと判断すれば心臓を握りつぶす」


見せられた俺の心臓を見るとゾクリとした。
そして"違う感情も心の中で生まれたのだが"それを否定してトラファルガーを睨み付けた。
するとトラファルガーは俺の目元を手で覆った。
突然見えなくなった視界に『なんだ』と言えば小さな声で返された。


「あんまりその目で見るな…」


『は…?あ…』


そうか。
俺は今、目をあの布で隠していなかった。
緑の目は人を惹きつけ惑わせる。
迷惑この上ないこの存在。
トラファルガーはこの目を見なくても俺を仲間にしたいと言ってくれた。
それがとても嬉しかった。
俺の価値は目だけだと思っていたから。


「クルーに会う前にその目を隠さないとな」


『でもここは甲板だぞ、布類は大体船内にあるんじゃないのか?』


「・・・」


図星だったのかトラファルガーは黙った。
お互いの服をそのために引きちぎりたくもない。
はあ、とため息が聞こえた。
手で覆われているためトラファルガーの表情は見えない。
しばらくしてボスりと頭に何かが乗った。


「被っておけ、船内に入ったら何か巻けるような布を用意する」


『トラファルガーの…?』


「早く入れ」


中に入り扉が閉まると船はいきなり変な方向に動き出した。
トラファルガーは慣れているのかそのまま歩き奥へと進んでいく。
壁に手をやって歩く俺は必死にトラファルガーを追いかける。


「あ!キャプテンその子?新しい仲間!」


「そうだ、他の奴らは?」


「だいたいみんな食堂に集まってるよ!」


聞こえた声に顔を上げるとデカいシロクマ。
ギョッとして思わず下を再び見た。
こんな生物見たこともない。
食堂に入ると一気に集まる俺への視線。


「…キャプテンの帽子かぶってんぞ」
「あれがいちや一族か…」
「なんでもキャプテンの刀を一度曲げたらしい」
「じゃあ能力者か!」
「かなりの戦力になるな!」


「ほら、自分で言え」


とん、とトラファルガーに肩を叩かれた。


『リア…、よろしく頼む』


一族以外と話したことなど客と以外ない俺は緊張しきっていた。
トラファルガーは俺の目をなるべく見ないよう告げると再び俺の腕を引いた。
船長室らしき部屋の前に行くと俺に待つように言って中に入ると暫くして出てきた。
俺のかぶっていた帽子を取るとトラファルガーと目が合った。
一瞬だけ目を見開いたが視線を逸らし俺に服を投げつけてきた。


「いい感じの布が見当たらなかった、次の島を降りたら買ってやるからそれを着ておけ」


フードの付いた服だ。
匂いを嗅ぐと何故か消毒液の香りがした。
そういえばトラファルガーは外科医だったか。
つまりこれはー…。


『トラファルガー、お前の服か』


「そんな迷惑そうな顔をするな」


自分の着ていた服を脱ぎ、先ほど渡された服を着る。
その時視線を感じたのは俺の体であった。
俺の体は「教育」によって傷だらけであった。
それを見ていたのだろう。


「…明後日には島に着くはずだ。それまでは他のクルーと親しくなっておけ」


『トラファルガー、』


「お前の心臓は俺のもんだ、もう降りるなんて言わせねえ」


心臓を奪った
心を奪えたわけじゃない

この時点ですでにローはリアのことを恋愛対象としていますが無自覚です
リアは新しい世界に混乱してばかりで恋どころじゃないです



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