15

「全然覚えてねーって!?」


「ごめんってば峰ちーんっ」


『紫原は悪くないだろ』


橙郷の言葉にぐっと峰ちんは固まった。
本当何が何だか分からない。
本当に思い出せないのだ。
みんなの話によれば俺は4人を苦しめてしまったらしい。
確かに俺は黄瀬ちんの正体も峰ちんの体質のことも知っていた。
だからって俺が黄瀬ちんのやらかした事を知るはずがない、と言えば「確かに獏にそんな力はない」と橙郷は言ってくれた。


『黒子には言ったが獏はそもそも人間にとってよいもの。特に青峰のように悪夢を見やすい奴によってはな』


「そうだよー俺峰ちんの悪夢は頻繁に食べてたし、むしろ感謝してる方だからこんなことしないしー」


「え?じゃあ俺の猿夢喰ったのって…」


「俺ー」


俺は人に触れることで悪夢を取り出し食べることができる。
先々週くらいに峰ちんが体調悪そうに部活に来ていたから皆が心配する隙を狙って触ったのだ。
「そういえば紫原に何か触られたかも…」と峰ちんは思い出したような顔をする。
それに俺と峰ちんは1年生のとき同じクラスだった。
だから頻繁に悪夢を食べることができたけど二年生になってからは部活中にしか会わなくなった。
同じ部活だからと言って頻繁に触るのはおかしい。
きっと二年生になってから峰ちんは悪夢を頻繁に見ることも多くなったんじゃないだろうか。


「でもまさか橙郷がまさか祓い屋だったなんてねー…俺のこと祓いにきたの?」


『まさか、紫原みたいな良い生物を祓う気も…そもそもお前みたいな伝説の生物俺じゃ手に負えないよ』


「…信じてくれんの?」


まだ黄瀬ちんも黒ちんも疑いの視線を送っているのに。


『夢喰いに過去を見る力はない、俺の過去も黄瀬の過去見ることなんてできない、つまりここには黒幕はいないってことだよ』


「―…ありがと、優しいね橙郷のお姉さんとそっくりだし」


『…?』


俺は何百年前かに橙郷の当主に会ったことがある
そのときは珍しく女性が当主だった。
どんどん人間は人外という類を信じなくなった時代。
でも文明は開花していなかったから今の時代よりは信じている人は多かったかもしれない。
だけどやっぱり昔に比べたら全然だ。
すると俺にとって価値のある夢を見なくなった。
だから俺は悪夢ばっかり食べてつまらなかった。
その時、夢を詰めた風船をフワフワさせながら彼女は言ったのだ。


―…これは私の夢、食べてもいいわよ。けれど私に仕えないとあげない


高飛車な人だった。
風船に詰まった夢は凄くおいしそうで俺は食欲に負けて頷いた。
最初は食べ終わったら逃げてしまおうと思ってた。
けれどその人は俺を逃がさなかった。(かなり暴力的に押さえつけられたのは今でも忘れない)
窮屈な生活で妖を祓う手伝いも面倒だったけど、退屈じゃなかったのは確かだ。
けれど、人の一生は短い。
俺は彼女が亡くなってからも生き続けている。
また退屈な日々が始まった。
今みたいに人間に化けて人間の生活に溶け込む遊びをしていたとき、橙郷葉月に出会った。


(同じクラスになってからずっと思ってた、あの人と同じ髪と瞳だなあって)


『紫原、お前ほどの存在を操ることができるなんておかしい、俺がお前を守るよ』


嗚呼、その強い瞳も。
優しい色も全部一緒。
あんたはあの人の血を引いているんだね。
人の一生は短いから深く付き合いたくないと思ってたけど。


「じゃあ、俺も葉月ちんを守るし」


『え?』


「「「は!?」」」


「迷惑かけちゃったから峰ちんの悪夢は頻繁に食べる、精神面なら良い夢を見せて回復させられる」


『そっか…でもお前は悪くないよ、問題はお前がずっと眠っていたときだ』


「眠ってた?」


葉月ちんは言う。
俺は一週間も昼夜逆転した生活を送っていて病院で眠っていたそうだ。
でも俺にはその記憶もない。
俺は人間の生活に慣れ、獏としての昼夜逆転の生活を送っていた。
獏は夜、人間の夢を食べに行くが俺は昼に見た夢や今夜見るはずの夢を引きずり出して食べるのだ。
だから夜は寝ている。(というよりも休んでいる)


「そういえば僕たちのことをアリスって呼んでいました」


「アリス…?」


『紫原が休んでいるころから操られていたと考えるのが妥当だな』


「…俺のこと、本当に疑わないんだね」


人のトラウマを引きずり出すようなことをして峰ちん黄瀬ちんを殺しかけたっているのに。


『クラスメイトを、疑わないよ』


「…葉月ちん」


(((デレた…!!)))


少し頬を赤らめて苦笑する葉月ちん。
何時もは学校でマスク姿しか見てないけど。
マスクを外せばこんなに表情豊かなんだ、それに可愛い。


「じゃあ、精神的に今日は荒れちゃったから―…」


だから、今宵は良い夢を見れますように。
俺は葉月ちんの額に口付けた。
するとカクリ、と身体の力が抜けて黄瀬ちんの方に倒れる葉月ちん。


「紫原くんも人外だったんですね…」


「うん、今回は本当ごめんねー?」


内心、結構イラついている。
俺を操るとか何者?
葉月ちんたちと一緒にいれば探しやすい、というのも理由だけど。
やっぱり橙郷家の人間は俺たち(人外)に優しいなあ。


「今夜はみんなに良い夢を届けてあげるよ」


「え?まさか俺たちにもキ…キスするんすか!?」


「はあー?葉月ちんにだからキスしたに決まってんじゃん」


文句を言いかけた三人に俺が右手を出すとフワッと風船が三つ降りてくる。
好きなのとってーと言えば三人は手前のものから取っていき風船が割れると眠った。
四人が眠ってると俺まで眠くなってきて、そのまま眠った。


・・・


「そう…橙郷葉月…彼が今の当主なんだね」


橙郷葉月が現在住む夫婦の家の窓を敷地内にある庭の木から眠る四人を見つめる影。


「人の一生は短い…それは十分知っているはずなのに…どうして懐くんだい?」


ああ、だけれど。


「しょうがないね…敦、涼太。お前たちが橙郷葉月と一緒にいることを望むなら僕も望もう」


影―…赤司征十郎は口端を吊り上げた。


・・・
赤司征十郎(??/???)
詳細不明

Alice_mareーアリスメアー

紫の薔薇の花言葉…貴方を崇拝します、誇り

こんがらがるといけないので内容整理です

人外→●
人間→○

橙郷家(祓い屋一族)
○葉月(当主)
●黄瀬(絵/移動担当)
○黒子(一般人)
○青峰(悪夢に愛されているので他の脅威に強い)
●紫原(獏/心のケア担当)

??
→橙郷を見定めるために紫原を操っていたグループ


赤司
→黄瀬と紫原と同じ価値観を持っている様子(人の一生は短い)



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