04
クアっと欠伸をしてサボり場所を探す。
部活が始まるまでの授業何て面倒だ。
さつきに見つかる前に、と教室を抜け出して屋上へと向かう。
まだ昼休み中で廊下はざわついている。
このザワザワとした空気に紛れれば、さつきに見つかることもないだろう。
「はっ、バスケ部のエース様は授業なんか受けなくてもいいってか?」
「さすが天才だな、凡人じゃかなうはずないわ」
「おいおい、才能はバスケだけにあって頭にはないらしいぜ?」
「―…あ?」
クルリと声がした方に顔を向ければ知らん顔で逸らされる。
バスケ好きに悪いやつはいない、俺の自論ではあるが―…最近妙に周りの嫉妬がウザったい。
「お前ら、コソコソ言ってねえで正面から言ってこいよ」
「な、何のことだよ?俺たちは何も言ってないぞ?」
「被害妄想かよ」
「ああ?…っ!?」
胸倉を掴もうと腕を伸ばした瞬間、ドンっと俺の胸元に誰かがぶつかった。
「んだよ!前見て歩け!!」
先ほどの言葉でイライラしていた俺はその衝撃でブチリと切れてぶつかった存在の胸倉を掴み上げた。
絵具の原液をそのまま落としたかのような茶髪。
唇に光るピアスと音漏れの激しいヘッドフォン。
胸倉を掴まれても、なお睨み上げている鋭い目。
「茶ノ畑だ…!!」
「おい、やばくねぇ?」
「青峰と茶ノ畑が暴れたらどうなんだよ…」
集まってくる野次馬。
何だ?何なんだ?
『…手、離してくれる?』
「…」
『悪かった、これでいいだろ?お前だってこんな下らない事でバスケの試合に出られなくなったって意味ないだろ?』
「なんで、」
俺がバスケ部だって知っているんだ?
こんなマンモス校で。
緩んだ俺の手に周りの緊張とした空気も緩む。
「ひぃ!!」
「…お前、まさか」
茶ノ畑と呼ばれた男が俺に先ほど喧嘩を売った奴らを睨んだ。
すると怯えた声を出して立ち去っていく。
まさか、俺とアイツらを喧嘩させないために?
俺がケンカをしたら大会に出られないと知って?初対面だぞ?なんで…。
「こわ…」
「やっぱ不良だよね」
「そういえば最近また他校の奴等、カツアゲしたって」
「はぁ?そういうのマジやめてよ。怖いんだけどぉ」
「ちょ!こっち見てるよ!向こう行こ!!」
群がっていた野次馬が波のように引いていく。
「…ありがとな」
立ち去ろうとする背中に声をかける。
すると振り返って首を傾げた。
『…何のこと?』
「いいんだよ!」
俺が声を張り上げると少し目を見開いて微笑んだ。
そして去って行ったあと、さつきに見つかってしまい、結局後半の授業をサボることは出来なかった。
▽
(やっぱりアレが黒子と紫原が話してた青峰か)
何時だって目立つ奴のところには人が集まり、その分評価され嫉妬される。
どうして人間は面倒なんだろう。
本能が少ない動物だから?
感情があるから?
言葉があるから?
―…茶ノ畑には関わらないほうが良いよ
―…アイツと一緒にいると評価が下がる
『…』
別に認められたいわけでも評価されたいわけでもない。
でも、だけれど。
(誰か、俺のことを見ていてくれればそれだけで)
「あ!翼ちーん」
それだけで、もう俺は十分幸せ者なんだと思う。
俺は照れ隠しの様に顔を背けて暴言を吐きながら傍に寄り添う。
でもこんなことは俺の我が儘だ。
守りたい、守れない人なんていない。
後悔するくらいなら壊れてしまいたい。
無力なんかじゃない、でも無力のこの両手。
―…お姉ちゃん、ごめんなさい、俺が、守れなかったからいけないんだ
今度こそ守ってみせる。
救いのない世界、でも思うほど残酷じゃない現実。
この世に存在する全てを救うなんてできるはずもない。
だから俺は我が儘なんだ。
優しい自分に自惚れているだけじゃないのか?
その通りだ、自惚れているだけだ。
「救いたい」と思う自分に自惚れているだけだ。
だから青峰の感謝の言葉が胸に突き刺さった。
俺が青峰を助けた理由何て、そんなものなんだから。
紫原と黒子のチームメイトだから助けた、そして助けた自分で自分を満たす。
優しい自分に酔う俺は、最低な人間だ。
だから周りが俺を突き放すことに関して何の文句もない。
『どうした?紫原』
俺は、自己満足のために友人を使うような、クズである。
優しい自分に酔う
でもそれは確かに彼を救ったのに?