14

「茶ノ畑ー、これもう一つもらっていいか?」
「悪い、この部分解れちまったんだけど…」
「茶ノ畑、今度一緒に練習付き合ってくれないか?」


「―…なにあれ!!」


「落ち着いてください紫原くん」


俺はムッとしながらボールをゴールに突っ込んだ。
そんな俺をなだめる黒ちん。
だってイキナリ過ぎない?
この前まで不良だなんだと遠ざけていたくせに。
黒ちんを守っていたって事実が判明した瞬間に手のひら帰すみたいにあの態度。
イライラして仕方ない。
この前まで翼は俺だけと関わっていた筈なのに、つまんない。

それに、チマチマした奴らがこうやって集まっていると不愉快。
こんなこと赤ちんや黒ちんにバレたらすっごく怒られることくらい分かってる。
でも凄く胸やけがするんだ。


「…紫原くん?」


やっと1人になった翼ちんに近寄る。
誰かが話しかける前に行かないと、そう思って大股で。


(あ、)


持っていたタオルを落とした翼ちんが立ち止まってしゃがむ。
ガッと俺の歩幅が狂って躓いて。
ゆっくりとスローモーションみたいに押し倒して、

ゴッと鈍い音がした。
サァッと俺は青ざめた。
自分の大きな体のせいで倒れた翼は頭を打ったのか気を失っていて。
触れようとした俺に「動かすな!!」と赤ちんが慌てて止めた。


「救急車を。敦、お前も同行しろ」


「え、でも、でも」


(俺のせいで俺のせいだ、俺が俺が)


―…紫原くんが玩具壊したぁ!
―…お前がいたらみんな潰れちゃうよ!
―…御宅の息子さんに突き飛ばされて娘が怪我したんですよ


「きっと軽いものだよ、先生じゃ背負えないからお前が責任もって翼を連れて帰っておいで」


「できるな?」と赤ちんが俺に聞く。
コクリと頷いて先生と翼ちんとで、やってきた救急車に乗った。
カタカタ震える俺に先生やお医者さんが「大丈夫だよ」と慰める。
その言葉は、俺に言うものじゃないのに。

いやだ、この感覚。
昔のことを思い出してしまう。
翼ちんと初めて出会ったときも感じた感覚は、これだったんだ。


「敦くんが玩具壊した―」


だって脆いんだもん。
頑丈じゃない玩具が悪いんだし。


「紫原、いてーよバカ!」


ちょっと体がぶつかっただけじゃん。
ヒョロイお前が悪いんだし。


俺が人より大きいからみんなみんな壊れちゃう。
だから苦手。
俺より小さくて脆いもの。
好きって抱き締めるとみんな死んじゃう壊れちゃう。
だから苦手、大好きなのに。

みんな俺を指さすんだ。
小学生じゃないみたいって、大きいって。
好奇心の目が俺は苦手だ。
大きいってだけで嫌でも目は下を見下ろすことになって怖がられる。
そう、目付きが悪いだけで怖がられている翼ちんと同じで。

そんな俺にはバスケしかなかった。
背が高くて怖いイメージからバスケの出来る子に変わった。


(でも、でも、やっぱり俺はあのころから変わってない)


―…申し訳ございません、息子が突き飛ばしたことでお子さんに怪我を


ねえ、何で謝るの?
ソイツがおふざけでタックルしてきたから同じことをしただけだよ。


―…他の子と違って体格も成人並みなんですから考えて行動してくださいます?
―…体育の授業のペアも私の子と組まないでほしいわ
―…ただの遊びが遊びじゃすまないのよねぇ
―…可哀想だけど、周りの子と違うって自覚してくれないと


(俺は、違うんだ、他の人と違う、こんな身体、いやだ)



(やだ…)


『紫原、』


病院のソファーに腰かけて悩んでいる俺に触れたのは翼ちんだった。
外傷もなくて本当にただの脳震盪だったみたいで。
先生も安心したように笑ってる。


「…翼ちん!」


触れようとした手を、俺は思わず引っ込めた。


(…俺が触ったら)


―…力も体格も他のことは違うんですから自覚してくれないと


『ん、運んでくれんだろ?』


「…で、でも」


『先生じゃ俺を背負えないし、頼むよ』


「…」





翼ちんをおんぶして病院から合宿場に向かう。
先生が俺たちの前を歩いていて、その数メートル後ろに俺と翼ちんが歩いている。
海が夕日に反射してキラキラ光ってた。


「…ごめんね、俺が、大きいせいで翼ちんのこと、」


『それは違うよ紫原』


「…え?」


俺の頭に翼ちんの手が乗る。


『俺は簡単に壊れたりしないよ。だからそんなに自分の個性を否定することないよ』


「…で、でも」


『俺も、お前を何時でも受け止められるようになるから』


「―…」


だからいつでものしかかってこいよ、そう俺の髪をワシャワシャした。
お前の周りの連中はそんなにか弱いのか?って聞かれて慌てて首を横に振った。


『触れることを恐れることなんて、あってたまるか』


(あ…どうしよう)


壊れそうなくらい心臓がドンドン俺の胸を叩く。
胸が痛い、こんなに心臓が暴れたら壊れてしまいそう。
顔が熱くなって涙が出た。
この、気持ちの名前を俺は知ってる。
友情なんかじゃない、これは。


(翼ちん、好き…)


紫原敦の芽生え
赤司、黒子(緑間)に続いて紫原に春がやってきたようです



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