05

撤退していると壁付近で巨人に襲われている出来損ないが目に入った。
立体機動装置もないのに一体殺したらしい。
しかし二匹目に取りかかろうとした時、三匹目に食われそうになっていて俺は反射的に馬を走らせた。
間に合うか間に合わないか分からないと思った瞬間、エルヴィンが出来損ないを助けた。
そしてあの出来損ないがエルヴィンに笑いかけるのを見て胸焼けがした。
何故だかは理解できない。
だけど出来損ないの腰を蹴ったら出来損ないがコチラを向いたので少しだけ収まった。


「帰るぞ」


『痛ってぇよ!』


無理やり倒れた出来損ない腕を引くと指が食い込んだのか嫌がられた。
嫌がられてばかり。
だから俺はコイツが嫌いなのだ。
俺を嫌うコイツが嫌い。
エルヴィンやハンジには笑いかけるコイツが嫌い。


「死んじまえば良かったのに」


『…は?ならお前が死ねよ』


お前が俺を嫌うならいっそのこと死んじまえ。





「なら名前で呼んであげなよ」


「は?」


ハンジの言葉に俺は深く眉間に皺を寄せた。


「嫌われたくないなら名前を呼ぶといいよ、ハイネは人が優しく接した時に無視するほど性格は悪くないんだから」


「別に嫌われたくない訳じゃない、アイツが俺を嫌うのが鬱陶しいんだ」


(それを嫌われたくないって言うんじゃ…)


ハンジが何だか鬱陶しい事を考えていそうだから睨むと、まぁまぁと笑った。


「とにかく今度名前で呼んでみなよ」


―…名前で呼ぶ。
俺がアイツを?
あの出来損ないを名前で呼ぶのか。
俺をチビと呼ぶアイツを。

…とにかく悩むより実行してみようかとアイツの部屋に入った。
嫌そうに俺を見る出来損ないの腹を蹴ると『ぐぇ』というカエルが潰れたような声がしてベッドに倒れ込んだ出来損ないの腹を踏み潰したまま、


「ハイネ、」


『何だよ、リヴァイ』


「!」


なんの躊躇いもなく返された自分の名前。
イライラと積もっていた何かが溶けてゆくのが分かった。

―…人が優しく接した時に無視するほど性格は悪くないんだから

ああ、そうだな。
本当にそうだ。


「明日は会議室と庭の 掃除をするから来い」


『なら俺は調理場の掃除をする』


「は?」


『あん?』


この野郎、会議室と庭と言ったのに何故調理場が出てくるんだ。
文句を言おうとした時にハンジの言葉を思い出して蹴ろうとした足を腹から 離して床に下ろした。


「好きにしろ」


『…え?』


「なんだ」


『いや、別に…ありがと』


「……………」


突然笑うんじゃねぇよ、と蹴り上げた



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