37

足を負傷した。
エレンを女型の巨人から救出するときにだ。
ツキツキと痛む膝の異変に気付いたのは他でもない、ハイネ。
久しぶりに目があったことで一気に気持ちが高まったのを感じる。
もう何日も話していない。
何日も触れていない。
不安そうに揺れた瞳に思わず手を伸ばしそうになる。
しかし過ぎるのはあの時の一夜とエレンとの口付け。
俺への気持ちは?
お前の行動の意味は、何だったのか。

自分だけがハイネを好きでいる気がして腹が立った。

どうして、どうしてお前なんか好きになってしまったのだろう。
好きという感情なんてものは知らないままでよかったのに。
お前は俺にそれを教えてしまったのだ。

ハイネ、俺はこんなにもこんなにもおまえが好きで仕方ないというのに。
お前は俺をどんな風に思って接していた?


「ハイネー…っ、」


脱兎のごとく走り出したハイネ。
思わず俺も足に力を入れようとするものの痛んだ膝がそれを邪魔した。
イライラして、どうしようもないくらいにイライラして。
怪我をしたことを口実にハンジに後のことを頼むことにした。

自室に戻り何の手当もせずにベッドに倒れ込むと亡くなってしまった仲間たちを思い出し一気に疲れがでて。

死んだように眠った。


(何が人類最強なんだ、ハイネの前ではただの人間だ)





ー…かちゃ、


物音にはっと目が覚めた。
しかし意識は起きてもなかなか怪我と疲労のある身体は動くことが出来ない。

次に感じたのは香り。

そして、そっと優しく俺の髪を撫でたのは間違えるはずもなくハイネであった。
ドキリと跳ねて飛び起きてしまいそうになるが、ここは相手を伺うことにした。(寝起きというのにおかしなところで冷静なのが人間であるものだ)


『起きてない…よな?』


くにっと俺の頬を抓るものだから殴りたくなるが、ここも堪えてみる。
そっとハイネは俺に掛け布団をかけると俺のズボンの裾をまくった。
そしてヒヤリとした感触に冷却シートを貼っているのだと分かる。
包帯をぐるぐる巻き付け俺のズボンを戻す。

カチャカチャと耳元で音が聞こえて最初に感じた香りがする。
嗚呼、お前の料理の香りだったのか。


『ー…リヴァイ、』


その声に俺は飛び起きた。
泣きそうで鳴いているかのような甘える声。
そして驚いて固まってしまっているハイネを思い切り抱き締めた。


『リヴァ、』


「言え」


『は?』


「何があったのか言え」


その時の顔は見えなかったが、きっと泣いているのだろう。


『言えるはずないだろうが…っ』


濡れた肩の感触に俺は目を閉じた。


好きだからこそ言えない言葉
初恋だからこそ言えないもどかしさ。
相手の気持ちが分かれば苦労なんてしないのに。



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