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「俺は貴方が好きなんです!」
エレンの声がハイネの部屋から聞こえて半開きになっていたドアの隙間から覗くとエレンがハイネに口付けていた。
思わずドアを閉めた。
女の次はエレンか。
じゃあ俺は?
俺のことは?
俺が口付けたときは?
必死になって追いかけてきたハイネを振り払い、会議室に逃げ込むように入った。
「あれ?リヴァイ?どうしたんだい?」
「…ハンジか」
「顔色が悪いね、何かあった?」
「何もない」と応えれば「何年の付き合いだと思ってるの?」と苦笑された。
お見通しと言うことか。
まったくもってハンジは扱いにくい。
ハンジはコーヒーを淹れると俺の前に置いた。
「ハイネと喧嘩したのなら早く仲直りしなよ」
飲もうとして持ち上げたコーヒーカップを思わず置くと「ビンゴ」と頬杖をついたハンジが笑う。
「喧嘩だったら良かった方だ」
そんなものは日常茶飯事である。
「話せることかい?」
「ー…ハイネが女を抱いていた、先ほどもエレンとー」
思わず話してしまい、先ほどの光景が思い浮かぶと唇を噛む。
「女?調査兵団の子?」
「そこまでは見てねえ」
「有り得ないね」
ー…は?
俺が顔を上げるとハンジは呆れたような表情でコーヒーを飲んでいた。
「君は女の子に誘われたことがある?リヴァイ」
「…ねえよ」
「何故だと思う?君が粗暴で潔癖症なうえに人類最強だからだよ」
何がいいたい、そんなことは調査兵団にいれば皆知っていることだ。
「じゃあハイネは?あの子だって口は悪いわ態度はでかいわ、しかも人類最強になり損ねた強さもある」
ー…そしてそれは調査兵団にいれば皆知っていること。
どんなに容姿が整っていようとも性格に難がある。
「それが?」
「しかも、ハイネはリヴァイのことをー…」
どくり、と跳ねる。
しかしハンジは「これはまずいか」と笑ってはぐらかした。
「とにかくハイネが誘われることも誘うこともあり得ないと思うよ」
しかも部外者がいれば誰かしらが目撃するはずだ。
そして目撃したら何をしに来たのか問うし、そのことは必ずしもエルヴィンやリヴァイ、そして私たち分隊長に報告されること。
調査兵団のメンバーの女の子たちがハイネを誘う勇気もない。(というか彼女たちにそういう観念があるかも分からない、この調査兵団に入った時点で変わり者だ)
ハイネが誘うなら、もっと若い頃にそれは合ったはず。
「リヴァイ、何か変わったことはあった?」
「そう言えばー…」
ハイネの皮膚が包帯で覆われていた…。
「必ずしも理由がある、それを見つけださなくてはならない」
「…だが」
エレンとのキスは…?
どうやって説明する?
「あとはリヴァイ次第だよ、君はもう会いたくないの?」
コーヒーを飲み、ふとハイネが浮かぶ。
「俺はまたー…アイツのコーヒーが飲みたい」
味を覚えていますか